自分のPD翻訳を青空文庫に登録してもらうには
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カテゴリー:WEB,青空文庫 | 投稿者:OKUBO Yu | 投稿日:2012年6月13日 |

ネット上ではときどき「青空文庫手伝いたいけどどうすればいいのかな」というつぶやきのようなお悩みを拝見することがございます。それについてはみなさまがたびたびフォローされてますので問題はなかろうかと思うのですが、同時に「自分の翻訳に青空文庫からリンク貼ってもらいたいんだけどどうしたらいいんだろう」と思われる方も少ないかもしれませんがやはりおられるのではないかと想像するのです。

いやそもそも「自分の翻訳に青空文庫からリンク貼ってもらう」なんていうことがありうるのか、と疑問に思われる方もありましょう。そうなのです、ただいま青空文庫では「自作の小説」のリンク登録申請は受け付けられておりませんが、「自作の翻訳」(原文がパブリックドメインのもの)は訳者本人から申請することによって〈訳者の著作権あり作品〉としてリンク登録が今も受理されているのです。

とはいえ、そもそも気づかれていないのか利用価値なしと思われているのか、この登録を利用されるネット翻訳者の方はあまり多くはありません。というわけで、ここで不肖私が、古くから登録してもらっている古参として、その際の手順や注意点・メリット&デメリットをまとめておこうと考えるに至った次第。

 

0.手順まとめ

  1. 日本国内でパブリックドメインになっている作品を、自分で新しく翻訳する。
  2. その翻訳をネット上で公開する。
  3. 青空文庫の受付(reception)にメールして、自作翻訳をリンクしてほしい旨とそのアドレスを通知する。
  4. 著作権やその他もろもろ問題ないと判断され受理されれば、青空文庫の公開スケジュールに組み込まれる。
  5. 公開日にリンクが機能し始め、各種サイトやアプリに反映されるとともに、青空文庫経由での利用が始まる。

まずだいたいを示してみるとこんな感じでしょうか。この下では、ひとつずつ細かく解説していきます。

 

1.パブリックドメインの作品を翻訳する

当たり前のことですが、翻訳といっても、何でも勝手に翻訳して世に公開してしまっていいわけではありません。青空文庫が著作権の切れた作品を電子テキスト化してネット上での共有を実現させているように、青空文庫へ登録したいときは、やはりその翻訳も原文がパブリックドメイン(著作権の失効して公共の財産となったもの)でなくてはなりません。日本国内での著作権失効は、たいていの場合その作者が死んだ年の51年後の1月1日からですが、戦時加算という問題があって著作物の帰属する国によっては10数年ほどその期間が延びていることもあります。少し詳しいことは青空文庫内の「本という財産とどう向き合うか」にも書いてありますので、そちらも参照し、自分の訳そうとする原文が日本の著作権法に照らして問題がないかどうかしっかり確かめましょう。

そして〈翻訳〉ですが、これはさまざまな方向がありえます。一般的なのは、日本語以外の外国語から現代日本語に訳すことですが、青空文庫のなかには、古文から現代語へ訳したもの、また日本語から外国語へ訳したものなどもあります。これらは自分が〈何〉を〈どこ〉へ届けたいかによって違いますが、いずれにも前例がありますので、たとえば青空文庫内の作品を英語やエスペラント語にして世界へ公開する、という目的で登録してもらうことももちろん可能でしょう。

 

2.ネットで公開

青空文庫はインターネット図書館ですので、そのファイルはもちろんネット上で公開されています。というわけで、青空文庫への登録を希望する翻訳も、同じくネット上で公開されている必要があります。しかし、今のところ青空文庫本体が個々人の新訳のためにサーバスペースを提供することはありません。ですから、訳者は自分で自作翻訳の公開場所を確保しておかなければなりません。これまで(およびネット黎明期)は、個人所有のサーバ上もしくはレンタルサーバ上にホームページを作って、自作翻訳を置いておくのが一般的でした。しかし、最近はホームページを持たない方が主流ともなってきていますので、わざわざ作らずにパブーなどのネットサービスを利用して作品を置いても構いません(登録の前例あり)。

そしてネット上で公開されていることに加えてもうひとつ大事なのは、その作品が〈無償で全編読める状態〉になっていることです。翻訳が中途で完結していないものや(意図して抄訳されているものを除く)、公開されているのが一部分で全編読むために課金を要するものなどは、おそらく受け付けてもらえないでしょう。長編ならその全部、短編ならその1作品が、ネット上で無償で読めるようにすることです。

ただし、その二次利用については、各訳者の裁量次第で決められます。まったくの自由使用を可にするのか、商用転用を禁ずるのか。これら利用可能な範囲も、登録を申請する前にできればはっきりさせておきたいところです。その意思表示を簡便にするものとして、クリエイティブコモンズというライセンスもありますので、そちらを使ってもいいでしょう。同時に、自分への連絡方法も記しておくとなおいいかと思われます。こういった意思表示や著作権についての情報は、翻訳テキスト内のどこかにまとめておきましょう。青空文庫と似たような形式にしたい場合、このような表記が可能でしょうか。

【表記例】({}括弧は別の文案)

[#本文終わり]
翻訳の底本:John Doe (1xxx) “The Work”
上記の翻訳底本は、日本国内での著作権が失効しています。
翻訳者:ななしのもへじ
※この翻訳は「クリエイティブ・コモンズ xxx 2.1 日本 ライセンス」(http://creativecommons.org/licenses/xxx/2.1/jp/)によって公開されています。
上記のライセンスに従って、訳者に断りなく自由に利用・複製・再配布することができます。
※翻訳者のホームページ{メールアドレス}は、http://… にあります{xxx@xxxになります}。作品・翻訳の最新情報やお問い合わせは、青空文庫ではなく、こちらにお願いします。
20xx年xx月xx日翻訳
20xx年xx月xx日ファイル作成
インターネット提供ファイル:このファイルは、インターネットへフリー提供されています。
{青空文庫提供ファイル:このファイルは、青空文庫へ提供されています。}

また、公開する作品のファイル形式について、おそらくもっとも標準的なのはXHTMLでしょう。ただ、青空文庫に登録するにあたっては、青空文庫形式のテキストを用意すると、経由してやってくる利用者にとってたいへん便利になります。以前はXHTMLからの閲覧や二次利用がメインでしたが、現在スマートフォンやタブレット型PC、あるいは読書アプリケーションなどの普及により、青空文庫形式テキストの利用が高まっています。自分の翻訳を青空文庫から効果的に拡散したい場合、青空文庫形式のテキストを用意することは訳者本人にとっても大きな利益となります。テキストの整形方法については、青空文庫内の「組版案内」にガイドがありますので、そちらを参照してください。(さらに、青空文庫形式のテキストを作っておくと、Rubyを扱える環境があれば、青空文庫で公開されているXHTMLと似たようなものも自動生成することができます。)もちろんPDFがあれば、そのリンクアドレスも登録できます。

 

3.青空文庫の作業受付にメール

ネットへの公開やファイルの準備が終わったら、青空文庫の作業受付(reception)へ登録を申請する旨のメールを出しましょう。連絡先については、青空文庫内「工作員マニュアル」の底本選びの項目に記されてありますので、そちらを参照してください。そしてそのときに、必要な連絡事項も必ず添えて下さい。具体的には、最低限以下のみっつを。

  • 訳者名(あなたの名前、PNがあるならそれを)
  • 登録してほしい作品名とその著者名(原綴りや原題、著者の生没年があるとなお親切)
  • 上記作品へのリンクアドレス(XHTMLやTXTなどファイルが複数ある場合はそれぞれ。青空文庫形式テキストを作ったときは、ルビありかルビなしかも添えて)

また、あなたが初めて青空文庫に登録申請するときは、趣旨に賛同していることや、図書カードに記載されるプロフィールを添えてもいいかもしれません。

 

4.受理・公開スケジュール調整

あなたの申請が受理されれば、青空文庫の公開スケジュールに組み込まれ、しばらくのちに新着公開作品としてリンクされます。このタイミングはそのときどきの青空文庫の事情によって変化しますが、すぐではありません。ただ、直近ではない月日に公開を希望する場合(たとえば原著者の誕生日や命日・ゆかりの日など)、必ず通るわけではありませんが、ひとこと伝えてもいいでしょう。

 

5.利用

インターネット図書館としてある程度の認知がある青空文庫で公開されれば、自分だけで公開しているときとはまた違った集客効果などがあります。また一方でデメリットもあるでしょう。たとえば……

【メリット】

  • 青空文庫用の読書アプリケーションからのアクセスが増える。
  • 朗読など二次利用の機会が増える。
  • 翻訳者としてのある程度のPR効果がある。(商用利用可だとなおさら)

【デメリット】

  • 青空文庫アンチに嫌われる。(本好きのみならず出版業界にもときどきいらっしゃいます)
  • ごくまれに死んで50年以上経った人だと勘違いされる。
  • その他想定しない事態に見舞われることも。

 

おわりに

以上簡単にまとめてみましたが、いつもやっていることをなんとなくで思い出しながら書いているため、かゆいところに届かないかもしれません。気がついたらまた追記致しますが、これでひとまず公開。


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