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TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の大筋合意で、著作権保護期間がこれまでの50年から70年になるとのこと。
これによって青空文庫は大きな影響を受けるといわれているが、実際、どれくらい影響があるのか、今ひとつピンとこないので、ちょっと調べてみた。
まず、著作権の保護期間について、本日、つまり2015年11月11日現在で考えてみる。
保護期間が50年だと、1964年12月31日までに亡くなった方の著作権は切れていて、1965年1月1日以後に亡くなった方の著作権は保護される。
一方、保護期間が70年だと、1944年12月31日までに亡くなった方の著作権は切れていて、1945年1月1日以後に亡くなった方の著作権は保護される。
仮に、2015年11月11日に著作権保護期間が50年から70年に移行したとすると、
- 1944年12月31日までに亡くなった方の著作権は切れている→変更なし
- 1945年1月1日から1964年12月31日の間に亡くなった方の著作権は復活して保護されるようになる
- 1965年1月1日以後に亡くなった方の著作権は保護される→変更なし
ということになる。
次に、青空文庫への影響について。
青空文庫のトップページををみると、2015年11月11日現在の収録作品数は13,354(著作権なし:13,097、著作権あり:257)とある。
収録作品の内訳は、「公開中 作家リスト:全て」にある、「公開中 作家別作品一覧拡充版」をみるとわかるので、これをダウンロードして調べてみる。
すると、1945年1月1日から1964年12月31日の間に亡くなった方は311人で、その作品数は6,885。
もし、2015年11月11日に著作権保護期間が50年から70年に移行したとすると、公開されている作品数が13,354なので、13,354-6,885=6,469 。つまり、6,885は著作権が復活して読めなくなり、青空文庫で読めるのは半分以下の6,469、という計算になる。
うわ~、半分以上読めなくなるのか~。
実際には細かい例外とかあるだろうし、著作権法の改正がいつになるかによってこの数字は変るんだろうけど、それでも、青空文庫の半分くらいは読めなくなる、というのはたぶん変らないんだろうな。
やれやれ、TPPの影響がどれだけ大きいか、ヨクワカリマシタ。
※2015年12月5日追記
コメントをお寄せいただいたみなさま、どうもありがとうございました。
どうやら、著作権保護期間が50年から70年に移行しても、一度切れた著作権が復活することはなさそうですね。
そうなると、ここに書いた文章は間違いということで削除したほうがよさそうなのですが、今後、同じような勘違いをする人もいるかもしれませんので、このまま(恥をさらした形で)残しておきたいと思います。
※2016年10月18日追記
一度切れた著作権の復活については、TPPでも検討済だったようです。
「なお、既に保護期間が満了した著作物の保護を復活することは適切でないとされた32。」
注32「TPP 第18.10条第2項では、各締約国は、自国についてのTPP の効力発生日に自国領域内で既にパブリックドメインにある対象事項について、保護の回復を要求されないと規定している。」
寺倉憲一. TPPと著作権法改正 : 権利保護と利用の適正な均衡を目指して. 調査と情報. 2016.10.12, No.922, p.5.
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10201645_po_0922.pdf?contentNo=1 (参照 2016-10-18).
さすがにすでに著作権が切れているものが復活することはないでしょう。
そんなことやった青空文庫でなくても大混乱です。
なるほど。それが本当で、この計算が無駄になるのならウレシイのですが。
法制化される前ならできること。
遡及によって消されるであろう作品で読みたいものを全部自分のパソコンに
取り込んでおいて読んでいく。これは自分だけで楽しむのだから、外に出さない
限り70年延長後であっても違法ではないですよね?
それよりどこかにも投稿されていましたが、全作品(少なくとも消される作品)
だけでもいいからDVDを作っていただければありがたいのですが。
そんなに高くなければ有料でもいい。
これは法制化前なら違法ではないですよね。法制化前に作ったものが法制化後
流通するのはどうなんでしょうか。
青空文庫の作品の一括ダウンロードについては、「青空文庫FAQ」の中の「Q:青空文庫の収録作品を、一括してダウンロードすることはできないのですか?」に書かれてますね。
DVDについては、2007年に10周年記念のDVDを作っているので、次は2017年? それだと間に合わない?
青空文庫さんには、いつもお世話になっています。
TPPが大筋合意いたしましたが、今後、正式条約作成、調印、批准と難関が控えていて、まだ一波乱、二波乱は在りそうです。
それと平行して国内法が整備されていくと思いますが、願わくば、国内法の著作権の部分は粘りに粘り、遅らせ遅らせ、思いっきり引き伸ばし、ギリギリ、最後の最後に行ってほしいものです。
70年化されるのは改正法施行後の事に成る筈ですから、少しでも遅れれば、それだけ公開出来る作家さんが増えるはずです。
最低でも、山本周五郎さん辺りまでは粘って欲しいです。(個人的には、それ位に成るかと考えています)
今後の国会・政府等への運動は、「著作権法改正後回し運動」になるかと思います。
わたしは法律には詳しくないが、TPPによる著作権が改訂される場合、不遡及の原則が適用されるのかされないのかが問題だ。法律が改訂された時から適用されるのが原則だが、当事者が有利となる場合には遡及適用もあり得るという。この場合の当事者は著作権者か一般国民なのか。すんなりと不遡及の原則が通るといいのだが。、
TPP大筋合意と完全に合意するのは別の話。おそらく、これから先、ズルズル交渉の連続でTPP発効は何年か先になると思われる。それゆえ、心配はいらない。来年あたりに谷崎潤一郎の本が読めるようになるのが楽しみ♪
以前、2005年版「蔵書4670」というCD-ROMを
定価500円という信じられないほどの、求めやすい価格で販売してくださいました。
今度も、そうした形で、愛読者に提供してくださったらなと思っています。
寄付金も込みで、たとえ、1000円でも私は買いたいと思います。
どうか、是非、ご検討いただければと思います。
過去に遡って著作権保護が適用されることはまずありません。そこまでは考えなくても良いでしょう。
ThinkTPPの方たちから、著作者がきちんと登録されたものだけを50年から70年に延長保護するようにしようという案が出ています。逆に言うと、延長が望まれない場合にはそういう作者の作品は50年で公開できるということです。それだけでもかなりの著者の作品が今後も新規公開可能になると考えます。
ただし、青空文庫はすでに著作権保護期間の切れた著作者の作品だけでもかなりのバックログを抱えた状況なので、20年の延長など気にする余裕はないという気もします。
「蔵書4670」のようなものを、という声は多いですね。
蔵書4670のときはボイジャー社の協力をもらって、販売促進も兼ねてあの価格になったと聞いています。
当時、富田さんから作業量の話を聞いたことがありますが、かなり大変とのことでした。
青空文庫には著作権が切れたもの以外にもさまざまなコンテンツがありますから、それらを切り離して、再編集する必要があるそうです。青空文庫のサイトをそのまま収録しているわけではないのですよ。
いまだと、Github上にもクローンがあるので、そちらからご自分でお願いしますというのが勝手流の青空文庫風の答えになるのかな?
過去さまざまな著作権法上のとりきめが残っての日本の書籍を含めたコンテンツの状況ですから、20年の延長については、特に過去への波及に関してはあまり大きく考えなくてもいいと思いますよ。
もし、波及するとしても10年留保に基づいて、クリスティやクイーンの著作が随分と新訳すら出ていますから、これらを引き連れての退場になると思います。そのときは出版界から大きなブーイングがでますからね。
おかもとさん、いつもありがとうございます。
計算された数字ですが、私は無意味ではないと考えています。
たとえば、著作権保護期間が以前から70年だったとして、青空文庫が今のように13000作品を公開できたかというと、おそらくそんなこともなく、やはり計算された通りの半分だったかもしれません。
同じようにその視線を未来に振り向けてみると、これから保護期間が延長されれば、今後20年にわたって、そのままの保護期間であれば作業できていたはずの作品数の半分しかできないのかもしれません。
そうした想像を踏まえた上で、自分たちにできることを考えてみたいと思います。
おかもとさん、EUの経済統合の際には著作権保護期間を加盟国の最も長い基準に合わせて、過去のものに遡って延長したという事例があるそうです。だから、絶対にあり得ないとは言えませんが、TPPはEUほどは縛りの厳しくない条約なので、そこまで心配する必要はないだろうということです。
また、ずっと保護期間が70年だったらという話ですが、たぶん、そうだったらそうだったで、入力可能な著者の作品をもっときめ細かく拾い集めて、今よりももうちょっと少ないくらいの活動だったのではないですかね?>OKUBOさん
著作物の海を入力できる作品を探してさまよっていると、忘れ去られている多くの著作物があることに気づきます。そうしたものを全て青空文庫が拾えているかというと現状はそうではないように思います。
青空文庫の収録作品数が活動のひとつの熱量を示すものだとすると、似たような熱量を70年という枠組みで発揮していたように思うので、似たような数字になっていたような気がします。ただし、本棚の内容は現在の作品とは異なっていたはずですが。
書店の本棚を眺めていると、ここ数年でも多くの作家の本が消えていきました。
私の記憶のある数十年の長さで考えるともっと多くの作家が書店の書架から消えています。
著作権保護期間が長いということは、記憶から消えていく作家や作品が増えるということを示しているような気がします。
シェーン等の格安DVDを販売した所と映画配給元の間で起きた裁判が有って、最高裁判決で著作権を復活させない旨の判決が出ていたと思います。
TPPで合意され国内で立法時にどうなるかで変わる可能性は否定できませんが、保護期間を伸ばすだけであれば、復活しません。