こまとまりが、ほかのおもちゃのあいだにまじって、同じ引出しの中にはいっていました。あるとき、こまが、まりにむかって言いました。
「ねえ、おんなじ引出しの中にいるんだから、ぼくのいいなずけになってくれない?」
けれども、まりは、モロッコがわの着物を着ていて、自分では、じょうひんなお
そのつぎの日、おもちゃの持ち主の小さな男の子がきました。男の子は、こまに赤い色や、黄色い色をぬりつけて、そのまんなかに、しんちゅうのくぎを一本、うちこみました。こまが、ブンブンまわりだすと、ほんとうにきれいに見えました。
「ぼくを見てよ」と、こまは、まりに言いました。「ねえ、今度は、どう? いいなずけにならない? ぼくたち、とても似合ってるもの。きみがはねて、ぼくが
「まあ、そうかしら」と、まりが言いました。「でも、よくって。あたしのおとうさんとおかあさんは、モロッコがわのスリッパだったのよ。それに、あたしのからだの中には、コルクがはいっているのよ」
「そんなこといや、ぼくだって、マホガニーの木でできているんだよ」と、こまが言いました。「それも、市長さんが、ろくろ台を持っているもんだから、自分で、ぼくを作ってくれたんだよ。とっても、ごきげんでね」
「そうお。でも、ほんと?」と、まりが言いました。
「もし、これがうそだったら、ぼく、もう、ひもで打ってもらえなくったって、しかたがないよ」と、こまは答えました。
「あなた、ずいぶんお口がうまいのね」と、まりは言いました。「でも、だめだわ。あたし、ツバメさんと、はんぶん、
「うん、それだけでもいいや」と、こまは言いました。そして、ふたりの話は、それきり、おわってしまいました。
あくる日、まりは、外へ連れていかれました。こまが見ていると、まりは、鳥のように、空高くはねあがりました。しまいには、見えないくらい、高くはねあがりましたが、でも、そのたびに、もどってきました。そして、地面にさわったかと思うと、すぐまた、高く飛びあがるのでした。そんなに高くはねあがるのは、まりが、そうしたいと、あこがれていたからかもしれません。でなければ、からだの中に、コルクがはいっていたためかもしれません。けれども、九回めに飛びあがったとき、まりは、どこかへ行ってしまって、それなりもどってきませんでした。男の子は、いっしょうけんめいさがしましたが、どうしても見つかりませんでした。
「あのまりちゃんが、どこに行ったか、ぼくは、ちゃあんと知っている」と、こまは、ため息をついて、言いました。「ツバメくんの巣の中にいるのさ。ツバメくんと
こまは、そう思えば思うほど、ますます、まりに心をひかれていくのでした。まりをお
こまは、あいかわらずブンブンうなりながら、踊りまわりました。そのあいだも、心の中で思っているのは、いつもまりのことばかりでした。こまの頭の中に
こうして、
そして、こまも、もう、若くはありません。――ある日のこと、こまは、からだじゅうに、
みんなは、さがしに、さがしました。地下室までおりていって、さがしましたが、どうしても見つかりません。
どこへ行ってしまったのでしょう?
こまは、ごみ
「こいつはまた、すてきなところだ。ここじゃ、ぼくのからだにぬってある金も、すぐ、はげちまうな。だけどまあ、なんて、きたならしいやつらのところへ、きたもんだ!」
こまは、こう言いながら、葉をむきとられた、細長いキャベツのしんと、ふるリンゴみたいな、まるい、へんてこな物のほうを、横目でみました。ところが、それは、リンゴではありません。それこそ、年をとって、かわりはてた、まりの姿だったのです。まりは、幾年ものあいだ、といの中にはいっていたものですから、からだの中に水がはいりこんで、すっかり、ふくれあがっていたのでした。
「あら、うれしいこと。お話し相手になるような、仲間がきてくれたわ」と、まりは言って、金をぬった、こまをながめました。「あたし、ほんとうは、若い女の人の手で、ぬっていただいてね、モロッコがわの着物を着ているのよ。からだの中には、コルクもはいっているの。でも、だれにも、そんなふうには見えないでしょうねえ。あたし、もうすこしで、ツバメさんと結婚するところだったんですけど、あいにくと、といの中に落っこちて、そこに、五年もいましたの。それで、こんなに、水でふくれてしまったんですわ。そりゃあねえ、若い
けれども、こまは、なんにも言いませんでした。心の中では、むかしの
そのとき、女中がやってきて、ごみ箱をひっくりかえしました。そして、
「あら、こんなところに、金のこまがあるわ」と、言いました。
こうして、こまは、また、お部屋の中にもどって、