桑名の駅

中原中也




桑名の夜は暗かつた
蛙がコロコロ鳴いてゐた
夜更の駅には駅長が
綺麗な砂利を敷き詰めた
プラットホームにただ独り
ランプを持つて立つてゐた

桑名の夜は暗かつた
蛙がコロコロ泣いてゐた
焼蛤貝やきはまぐりの桑名とは
此処のことかと思つたから
駅長さんにたづねたら
さうだと云つて笑つてた

桑名の夜は暗かつた
蛙がコロコロ鳴いてゐた
大雨おほあめの、あがつたばかりのそのよる
風もなければ暗かつた
(一九三五・八・一二)
「此の夜、上京の途なりしが、京都大阪間の不通のため、臨時関西線を運転す」





底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店
   1968(昭和43)年12月10日改版初版発行
   1973(昭和48)年8月30日改版13版発行
入力:ゆうき
校正:ばっちゃん
2012年2月9日作成
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