堪へがたき
ふとめざむれば
壁わたる鈍き光や
障子を照らす光線の
やや色づきて言ひ知らず
ものうきけしき
物の香のただよふ
宿醉の胸苦し
腦は鉛の重たさに
えたへず喉は
ひしひしとかわき迫り
くるめくにがき
そぞろにもけだものの
かつゑし心
獰惡のふるまひを
思ひでて怖れわななく
下卑たる女の物言ひざま
はた酌人の低き鼻
どすぐろき頬の肉
追はんとすれど
まぼろしは醜かり
しかすがに
狂ひしよただ
肉ふるはせて抱きしは
我が手なり、
放埒の慾心の
あさましく汚らはし
ああ悔恨は死を迫る
つと起き出でてよろよろと
たんすを探る闇の中
しかはあれ共ピストルを
投げやりてをののきぬ
怖れぬ床に身を
そのたまゆらに狂ほしく
稚子のやうにも泣き入りぬ
さはしかすがに事もなく
夜の明けたるを悦びて
感謝の手をば合せぬる。