交歡記誌

萩原朔太郎




みどりに深き手を泳がせ
涼しきところに齒をかくせ
いま風ながれ
風景は白き帆をはらむ
きみはふんすゐのほとりに家畜を先導し
きみは舞妓たちを配列し
きみはあづまやに銀のタクトをとれ
夫人よ、おんみらはまた
とく水色の籐椅子といすに酒をそそぎてよ
みよ、ひとびときたる
遠方より魚を光らし
淫樂の戲奴は靴先に鈴を鳴らせり。
ああ、いま新らしき遊戲は行はれ
遠望の海さんさんたるに
われ諸君とゆびさし
眺望してながく塔下に演説す。





底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房
   1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行
   1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行
入力:kompass
校正:小林繁雄
2011年6月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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