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赤い手の長い
一年生のときは、うさぎと
ちゃうどそのときはかたくりの花の咲くころで、たくさんのたくさんの眼の
一、蜘蛛はどうしたか。
蜘蛛は会の済んだ晩方じぶんのうちの森の入口の
ところが蜘蛛はもう洞熊学校でお金をみんなつかってゐましたからもうなにひとつもってゐませんでした。そこでひもじいのを我慢して、ぼんやりしたお月様の光で網をかけはじめた。
あんまりひもじくてからだの中にはもう糸もない位であった。けれども蜘蛛は
「いまに見ろ、いまに見ろ」と
夜あけごろ、遠くから小さなこどものあぶがくうんとうなってやって来て網につきあたった。けれどもあんまりひもじいときかけた網なので、糸に少しもねばりがなくて、子どものあぶはすぐ糸を切って飛んで行かうとした。
あぶの子どもは「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」と哀れな声で泣いたけれども、蜘蛛は物も云はずに頭から羽からあしまで、みんな食ってしまった。そしてほっと息をついてしばらくそらを向いて腹をこすってから、又少し糸をはいた。そして網が一まはり大きくなった。
蜘蛛はまた枝のかげに戻って、六つの眼をギラギラ光らせながらじっと網をみつめて居た。
「ここはどこでござりまするな。」と云ひながらめくらのかげろふが
「ここは宿屋ですよ。」と蜘蛛が六つの眼を別々にパチパチさせて云った。
かげろふはやれやれといふやうに、巣へ腰をかけました。蜘蛛は走って出ました。そして
「さあ、お茶をおあがりなさい。」と云ひながらいきなりかげろふの胴中に
かげろふはお茶をとらうとして出した手を空にあげて、バタバタもがきながら、
「あはれやむすめ、父親が、
旅で果てたと聞いたなら」と哀れな声で歌ひ出しました。
「えい。やかましい。じたばたするな。」と蜘蛛が云ひました。するとかげろふは手を合せて
「お慈悲でございます。遺言のあひだ、ほんのしばらくお待ちなされて下されませ。」とねがひました。
蜘蛛もすこし哀れになって
「よし早くやれ。」といってかげろふの足をつかんで待ってゐました。かげろふはほんたうにあはれな細い声ではじめから歌ひ直しました。
「あはれやむすめちゝおやが、
旅ではてたと聞いたなら、
ちさいあの手に白手甲、
いとし
まうしご
かどなみなみに立つとても、
非道の蜘蛛の網ざしき、
さはるまいぞや。よるまいぞ。」
「小しゃくなことを。」と蜘蛛はたゞ一息に、かげろふを食ひ殺してしまひました。そしてしばらくそらを向いて、腹をこすってからちょっと眼をぱちぱちさせて
「小しゃくなことを言ふまいぞ。」とふざけたやうに歌ひながら又糸をはきました。
網は三まはり大きくなって、もう立派なかうもりがさのやうな巣だ。蜘蛛はすっかり安心して、又葉のかげにかくれました。その時下の方でいゝ声で歌ふのをききました。
「赤いてながのくぅも、
天のちかくをはひまはり、
スルスル光のいとをはき、
きぃらりきぃらり巣をかける。」
見るとそれはきれいな女の
「こゝへおいで」と手長の蜘蛛が云って糸を一本すうっとさげてやりました。
女の蜘蛛がすぐそれにつかまってのぼって来ました。そして二人は夫婦になりました。網には毎日沢山食べるものがかゝりましたのでおかみさんの蜘蛛は、それを沢山たべてみんな子供にしてしまひました。そこで子供が沢山生まれました。所がその子供らはあんまり小さくてまるですきとほる位です。
子供らは網の上ですべったり、
ある日夫婦のくもは、葉のかげにかくれてお茶をのんでゐますと、下の方でへらへらした声で歌ふものがあります。
「あぁかい手ながのくぅも、
できたむすこは二百
めくそ、はんかけ、蚊のなみだ、
大きいところで
見るとそれはいつのまにかずっと大きくなったあの銀色のなめくぢでした。
蜘蛛のおかみさんはくやしがって、まるで火がついたやうに泣きました。
けれども手長の蜘蛛は云ひました。
「ふん、あいつはちかごろ、おれをねたんでるんだ。やい、なめくぢ。おれは今度は虫けら会の副会長になるんだぞ。へっ。くやしいか。へっ。てまへなんかいくらからだばかりふとっても、こんなことはできまい。へっへっ。」
なめくぢはあんまりくやしくて、しばらく熱病になって、
「うう、くもめ、よくもぶじょくしたな。うう。くもめ。」といってゐました。
網は時々風にやぶれたりごろつきのかぶとむしにこはされたりしましたけれどもくもはすぐすうすう糸をはいて修繕しました。
二百疋の子供は百九十八疋まで
けれども子供らは、どれもあんまりお互ひに似てゐましたので、親ぐもはすぐ忘れてしまひました。
そして今はもう網はすばらしいものです。虫がどんどんひっかゝります。
ある日夫婦の
すると下の方で大きな笑ひ声がしてそれから太い声で歌ふのが聞えました。
「あぁかいてながのくぅも、
てながの赤いくも
あんまり網がまづいので、
八千二百里旅の蚊も、
くうんとうなってまはれ右。」
見るとそれは顔を洗ったことのない
「何を。狸め。おれはいまに虫けら会の会長になってきっときさまにおじぎをさせて見せるぞ。」
それからは蜘蛛は、もう一生けん命であちこちに十も網をかけたり、夜も見はりをしたりしました。ところが諸君困ったことには腐敗したのだ。食物があんまりたまって、腐敗したのです。そして蜘蛛の夫婦と子供にそれがうつりました。そこで
ちゃうどそのときはつめくさの花のさくころで、あの眼の
二、銀色のなめくぢはどうしたか。
丁度蜘蛛が林の入口の
その
「なめくぢさん。今度は
するとなめくぢが云ひました。
「あげますともあげますとも、さあ、おあがりなさい。」
「あゝありがたうございます。助かります。」と云ひながらかたつむりはふきのつゆをどくどくのみました。
「もっとおあがりなさい。あなたと
「そんならも少しいたゞきます。あゝありがたうございます。」と云ひながらかたつむりはも少しのみました。
「かたつむりさん。気分がよくなったら一つひさしぶりで
「おなかがすいて力がありません。」とかたつむりが云ひました。
「そんならたべ物をあげませう。さあ、おあがりなさい。」となめくぢはあざみの芽やなんか出しました。
「ありがたうございます。それではいたゞきます。」といひながらかたつむりはそれを喰べました。
「さあ、すまふをとりませう。ハッハハ。」となめくぢがもう立ちあがりました。かたつむりも仕方なく、
「
「よっしょ。そら。ハッハハ。」かたつむりはひどく投げつけられました。
「もう一ぺんやりませう。ハッハハ」
「もうつかれてだめです。」
「まあもう一ぺんやりませうよ。ハッハハ。よっしょ。そら。ハッハハ。」かたつむりはひどく投げつけられました。
「もう一ぺんやりませう。ハッハハ。」
「もうだめです。」
「まあもう一ぺんやりませうよ。ハッハハ。よっしょ、そら。ハッハハ。」かたつむりはひどく投げつけられました。
「もう一ぺんやりませう。ハッハハ。」
「もうだめ。」
「まあもう一ぺんやりませうよ。ハッハハ。よっしょ。そら。ハッハハ。」かたつむりはひどく投げつけられました。
「もう一ぺんやりませう。ハッハハ。」
「もう死にます。さよなら。」
「まあもう一ぺんやりませうよ。ハッハハ。さあ。お立ちなさい。起こしてあげませう。よっしょ。そら。ヘッヘッヘ。」かたつむりは死んでしまひました。そこで銀色のなめくぢはかたつむりを殻ごとみしみし喰べてしまひました。
それから一ヶ月ばかりたって、とかげがなめくぢの立派なおうちへびっこをひいて来ました。そして
「なめくぢさん。今日は。お薬をすこし呉れませんか。」と云ひました。
「どうしたのです。」となめくぢは笑って聞きました。
「へびに
「そんならわけはありません。
「どうかお願ひ申します」ととかげは足を出しました。
「えゝ。よござんすとも。
そしてなめくぢはとかげの傷に口をあてました。
「ありがたう。なめくぢさん。」ととかげは云ひました。
「も少しよく嘗めないとあとで大変ですよ。今度又来てももう直してあげませんよ。ハッハハ。」となめくぢはもがもが返事をしながらやはりとかげを嘗めつゞけました。
「なめくぢさん。何だか足が溶けたやうですよ。」ととかげはおどろいて云ひました。
「ハッハハ。なあに。それほどぢゃありません。ハッハハ。」となめくぢはやはりもがもが答へました。
「なめくぢさん。おなかが何だか熱くなりましたよ。」ととかげは心配して云ひました。
「ハッハハ。なあにそれほどぢゃありません。ハッハハ。」となめくぢはやはりもがもが答へました。
「なめくぢさん。からだが半分とけたやうですよ。もうよして下さい。」ととかげは泣き声を出しました。
「ハッハハ。なあにそれほどぢゃありません。ほんのも少しです。ハッハハ。」となめくぢが云ひました。
それを聞いたとき、とかげはやっと安心しました。安心したわけはそのとき丁度心臓がとけたのです。
そこでなめくぢはペロリととかげをたべました。そして途方もなく大きくなりました。
あんまり大きくなったので
そしてかへって蜘蛛からあざけられて、熱病を起して、毎日毎日、ようし、おれも大きくなるくらゐ大きくなったらこんどはきっと虫けら院の名誉議員になってくもが何か云ったときふうと息だけついて返事してやらうと云ってゐた。ところがこのころからなめくぢの評判はどうもよくなくなりました。
なめくぢはいつでもハッハハと笑って、そしてヘラヘラした声で物を言ふけれども、どうも心がよくなくて
「なめくぢのやりくちなんてまづいもんさ。ぶま加減は見られたもんぢゃない。あんなやりかたで大きくなってもしれたもんだ。」
なめくぢはこれを聞いていよいよ怒って早く名誉議員にならうとあせってゐた。そのうちに蜘蛛が腐敗して溶けて雨に流れてしまひましたので、なめくぢも少しせいせいしながら
するとある日
そして、
「なめくぢさん。こんにちは。少し水を
なめくぢはこの雨蛙もペロリとやりたかったので、思ひ切っていゝ声で申しました。
「蛙さん。これはいらっしゃい。水なんかいくらでもあげますよ。ちかごろはひでりですけれどもなあに云はばあなたと
蛙はどくどくどくどく水を呑んでからとぼけたやうな顔をしてしばらくなめくぢを見てから云ひました。
「なめくぢさん。ひとつすまふをとりませうか。」
なめくぢはうまいと、よろこびました。自分が云はうと思ってゐたのを蛙の方が云ったのです。こんな弱ったやつならば五へん投げつければ大ていペロリとやれる。
「とりませう。よっしょ。そら。ハッハハ。」かへるはひどく投げつけられました。
「もう一ぺんやりませう。ハッハハ。よっしょ。そら。ハッハハ。」かへるは又投げつけられました。するとかへるは大へんあわててふところから塩のふくろを出して云ひました。
「土俵へ塩をまかなくちゃだめだ。そら。シュウ。」塩が白くそこらへちらばった。
なめくぢが云ひました。
「かへるさん。こんどはきっと
そして手足をひろげて青じろい腹を空に向けて死んだやうになってしまひました。銀色のなめくぢは、すぐペロリとやらうと、そっちへ進みましたがどうしたのか足がうごきません。見るともう足が半分とけてゐます。
「あ、やられた。塩だ。畜生。」となめくぢが云ひました。
蛙はそれを聞くと、むっくり起きあがってあぐらをかいて、かばんのやうな大きな口を一ぱいにあけて笑ひました。そしてなめくぢにおじぎをして云ひました。
「いや、さよなら。なめくぢさん。とんだことになりましたね。」
なめくぢが泣きさうになって、
「
「さよならと云ひたかったのでせう。本当にさよならさよなら。わたしもうちへ帰ってからたくさん泣いてあげますから。」と云ひながら一目散に帰って行った。
さうさうこのときは丁度秋に
三、顔を洗はない狸。
「狸さま。かうひもじくては全く仕方ございません。もう死ぬだけでございます。」
狸がきもののえりを
「さうぢゃ。みんな往生ぢゃ。
兎も一緒に
「なまねこ、なまねこ、なまねこ、なまねこ。」
狸は兎の手をとってもっと自分の方へ引きよせました。
「なまねこ、なまねこ、みんな山猫さまのおぼしめしどほりになるのぢゃ。なまねこ。なまねこ。」と云ひながら兎の耳をかじりました。兎はびっくりして叫びました。
「あ痛っ。狸さん。ひどいぢゃありませんか。」
狸はむにゃむにゃ兎の耳をかみながら、
「なまねこ、なまねこ、世の中のことはな、みんな山猫さまのおぼしめしのとほりぢゃ。おまへの耳があんまり大きいのでそれをわしに
兎もさうきいてゐると、たいへんうれしくてボロボロ涙をこぼして云ひました。
「なまねこ、なまねこ。あゝありがたい、山猫さま。
「なまねこ、なまねこ、こんどは
兎はますますよろこんで、
「あゝありがたや、
狸はもうなみだで
「なまねこ、なまねこ。みんなおぼしめしのとほりでございます。わたしのやうなあさましいものでも、命をつないでお役にたてと
兎はすっかりなくなってしまひました。
そして狸のおなかの中で云ひました。
「すっかりだまされた。お前の腹の中はまっくろだ。あゝくやしい。」
狸は怒って云ひました。
「やかましい。はやく溶けてしまへ。」
兎はまた叫びました。
「みんな狸にだまされるなよ。」
狸は眼をぎろぎろして外へ聞えないやうにしばらくの間口をしっかり閉ぢてそれから手で鼻をふさいでゐました。
それから丁度二ヶ月たちました。ある日、狸は自分の
そこで狸は云ひました。
「お前はものの命をとったことは、五百や千では利くまいな。生きとし生けるものならばなにとて死にたいものがあらう。な。それをおまへは食ったのぢゃ。な。早くざんげさっしゃれ。でないとあとでえらい責苦にあふことぢゃぞよ。おゝ恐ろしや。なまねこ。なまねこ。」
狼はすっかりおびえあがって、しばらくきょろきょろしながらたづねました。
「そんならどうしたらいゝでせう。」
狸が云ひました。
「わしは山ねこさまのお身代りぢゃで、わしの云ふとほりさっしゃれ。なまねこ。なまねこ。」
「どうしたらようございませう。」と狼があわててききました。狸が云ひました。
「それはな。じっとしてゐさしゃれ。な。わしはお前のきばをぬくぢゃ。このきばでいかほどものの命をとったか。恐ろしいことぢゃ。な。お前の目をつぶすぢゃ。な。この目で何ほどのものをにらみ殺したか、恐ろしいことぢゃ。それから。なまねこ、なまねこ、なまねこ。お前のみゝを
たうとう
そして
「こゝはまっくらだ。あゝ、こゝに
狸はやかましいやかましい
ところが狸は次の日からどうもからだの
はじめは水を呑んだりしてごまかしてゐたけれども一日一日それが
林中のけだものはびっくりして集って来た。見ると狸のからだの中は稲の葉でいっぱいでした。あの狼の下げて来た籾が芽を出してだんだん大きくなったのだ。
このときはもう冬のはじまりであの眼の