麻が刈られましたので、畑のへりに一列に植ゑられてゐたたうもろこしは、大へん立派に目立ってきました。
小さな
たうもろこしには、もう頂上にひらひらした穂が立ち、大きな縮れた葉のつけねには
そして風にざわざわ鳴りました。
一
「おや、へんな動物が立ってゐるぞ。からだは
そこで蛙は上等の遠めがねを出して
蛙がちゃうど五百ばかりはねたときもう一ぴきの蛙がびっくりしてこっちを見てゐるのに会ひました。
「おゝい、どうしたい。いったい
「どうしてどうして、全くもう大変だ。カマジン国の兵隊がたうとうやって来た。みんな二ひきか三びきぐらゐ幽霊をわきにかかへてる。その幽霊は歯が七十枚あるぞ。あの幽霊にかじられたら、もうとてもたまらんぜ。かあいさうに、麻はもうみんな食はれてしまった。みんなまっすぐな、いい若い者だったのになあ。ばりばり骨まで
「何かい、兵隊が幽霊をつれて来たのかい、そんなにこはい幽霊かい。」
「どうしてどうしてまあ見るがいゝ。どの幽霊も青白い髪の毛がばしゃばしゃで歯が七十枚おまけに足から頭の方へ青いマントを六枚も着てゐる」
「いまどこにゐるんだ。」
「おまへのめがねで見るがいゝあすこだよ。麻ばたけの向ふ側さ。おれは
あたらしい蛙は遠めがねを出して見ました。
「何だあれは幽霊でも何でもないぜ。あれはたうもろこしといふやつだ。おれは去年から知ってるよ。そんなに人が悪くない。わきに居るのは幽霊でない。みんな立派な娘さんだよ。娘さんたちはみんな緑色のマントを着てるよ。」
「緑色のマントは着てゐるさ。しかしあんなマントの着様が一体あるもんかな。足から頭の方へ
「ははあ、しかし世の中はさまざまだぜ。たとへば
「よして
「そんなことはない。まあもっとそばまで行って見よう。おや。
「あゝ、よく見える。何だ手が十六本あるって。おれには五本ばかりしか見えないよ。あっ。あの幽霊をつかまへてるよ。」
「どれ貸してごらん、ああ、とってるとってる。みんながりがりとってるねえ。たうもろこしは
「どら、貸した。なるほど十六本かねえ、四本は大へん小さいなあ。あゝあとからまた一人来た。あれは女の子だらうねえ。」
「どう、ちょっと、さうだよ。あれは女の子だよ。ほういまねえあの女の子がたうもろこしの娘さんの髪毛をむしってねえ、口へ入れてそらへ吹いたよ。するとそれがぱっと青白い火になって燃えあがったよ。」
「こっちへ来るとこはいなあ、」
「来ないよ。あゝ、もう行ってしまったよ。何か叫んでゐるやうだねえ。」
「歌ってるんだ。けれどもぼくたちよりはへただねえ。」
「へただ、ぼく少しうたってきかしてやらうかな。ぼくうたったらきっとびっくりしてこっちを向くねえ。」
「うたってごらん。こっちへ来たらその葉のかげにかくれよう。」
「いゝかい、うたふよ。ぎゅっくぎゅっく。」
「向かないよ。も少し高くうたってごらん。」
「どうもつかれて声が出ないよ。ぎゅっく。もうよさう。」
「よすかねえ。行ってしまった残念だなあ。」
「ぽくは遠めがねをとってくる。ぢゃさよなら。」
「さよなら。」
二ひきの
たうもろこしはさやをなくして大変さびしくなりましたがやっぱり穂をひらひら空にうごかしてゐました。