そらのてっぺんなんか冷たくて冷たくてまるでカチカチの
そして星が一杯です。けれども東の空はもう優しい
その明け方の空の下、ひるの鳥でも
実にその
いてふの実はみんな一度に目をさましました。そしてドキッとしたのです。今日こそはたしかに旅立ちの日でした。みんなも前からさう思ってゐましたし、昨日の夕方やって来た二羽の
「
「よく目をつぶって行けばいゝさ。」も一つが答へました。
「さうだ。忘れてゐた。僕水筒に水をつめて置くんだった。」
「僕はね、水筒の外に
「なぜおっかさんは僕へは
「だから、僕あげるよ。お
さうです。この
今年は千人の
そして今日こそ子供らがみんな一緒に旅に
「ね、あたしどんな
「あたしだってわからないわ、どこへも行きたくないわね。」も一人が云ひました。
「あたしどんなめにあってもいゝからお
「だっていけないんですって。風が毎日さう云ったわ。」
「いやだわね。」
「そしてあたしたちもみんなばらばらにわかれてしまふんでせう。」
「えゝ、さうよ。もうあたしなんにもいらないわ。」
「あたしもよ。今までいろいろわが
「あら、あたしこそ。あたしこそだわ。許して
東の空の桔梗の花びらはもういつかしぼんだやうに力なくなり、朝の白光りがあらはれはじめました。星が一つづつ消えて
木の一番一番高い
「そら、もう明るくなったぞ。
「僕もなるよ。きっとこゝから落ちればすぐ北風が空へ連れてって呉れるだらうね。」
「僕は北風ぢゃないと思ふんだよ。北風は親切ぢゃないんだよ。僕はきっと
「さうだ。きっと烏さんだ。烏さんは偉いんだよ。こゝから遠くてまるで見えなくなるまで一息に飛んで
「頼んで見ようか。早く来るといゝな。」
その少し下でもう二人が云ひました。
「僕は一番はじめに
「うん。あるだらう。けれどもあぶないぢゃないか。ばけ物は大きいんだよ。僕たちなんか鼻でふっと吹き飛ばされちまふよ。」
「僕ね、いゝもの持ってるんだよ。だから大丈夫さ。見せようか。そら、ね。」
「これお
「さうだよ。お
「本当にいゝね、そんならその時僕はお客様になって行ってもいゝだらう。」
「いゝともさ。僕、国を半分わけてあげるよ。それからお
星がすっかり消えました。東のそらは白く燃えてゐるやうです。木が
「僕、
「そんなら僕のと替へよう。僕のは少し大きいんだよ。」
「替へよう。あ、丁度いゝぜ。ありがたう。」
「わたし困ってしまふわ、おっかさんに貰った新しい
「早くおさがしなさいよ。どの枝に置いたの。」
「忘れてしまったわ。」
「困ったわね。これから非常に寒いんでせう。どうしても見附けないといけなくってよ。」
「そら、ね。いゝぱんだらう。ほし
「ありがたう。ぢゃ
「困ったわ、わたし、どうしてもないわ。ほんたうにわたしどうしませう。」
「わたしと二人で行きませうよ。わたしのを時々貸してあげるわ。凍えたら一緒に死にませうよ。」
東の空が白く燃え、ユラリユラリと揺れはじめました。おっかさんの木はまるで死んだやうになってじっと立ってゐます。
突然光の束が
北から氷のやうに冷たい透きとほった風がゴーッと吹いて来ました。
「さよなら、おっかさん。」「さよなら、おっかさん。」子供らはみんな一度に雨のやうに枝から飛び下りました。
北風が笑って、
「今年もこれでまづさよならさよならって云ふわけだ。」と云ひながらつめたいガラスのマントをひらめかして向ふへ行ってしまひました。
お日様は燃える宝石のやうに東の空にかかり、あらんかぎりのかゞやきを悲しむ母親の木と旅に出た子供らとに投げておやりなさいました。