雪渡り その一(
雪がすっかり
「
お日様がまっ白に燃えて
木なんかみんなザラメを
「堅雪かんこ、
四郎とかん子とは小さな
こんな
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
二人は森の近くまで来ました。大きな
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。狐の子ぁ、
しばらくしいんとしましたので二人はも一度叫ぼうとして息をのみこんだとき森の中から
「凍み雪しんしん、堅雪かんかん。」と
四郎は少しぎょっとしてかん子をうしろにかばって、しっかり足をふんばって叫びました。
「狐こんこん白狐、お嫁ほしけりゃ、とってやろよ。」
すると狐がまだまるで小さいくせに銀の針のようなおひげをピンと一つひねって云いました。
「四郎はしんこ、かん子はかんこ、おらはお嫁はいらないよ。」
四郎が笑って云いました。
「狐こんこん、狐の子、お嫁がいらなきゃ
すると狐の子も頭を二つ三つ
「四郎はしんこ、かん子はかんこ、黍の団子をおれやろか。」
かん子もあんまり面白いので四郎のうしろにかくれたままそっと歌いました。
「狐こんこん狐の子、狐の団子は
すると小狐紺三郎が笑って云いました。
「いいえ、決してそんなことはありません。あなた方のような立派なお方が
四郎がおどろいて
「そいじゃきつねが人をだますなんて
紺三郎が熱心に云いました。
「偽ですとも。けだし最もひどい偽です。だまされたという人は
四郎が叫びました。
「甚兵衛さんならじょうるりじゃないや。きっと
子狐紺三郎はなるほどという顔をして、
「ええ、そうかもしれません。とにかくお団子をおあがりなさい。私のさしあげるのは、ちゃんと私が畑を作って
と云いました。
と四郎が笑って、
「紺三郎さん、僕らは丁度いまね、お餅をたべて来たんだからおなかが減らないんだよ。この次におよばれしようか。」
子狐の紺三郎が
「そうですか。そんなら今度
「そんなら五枚お
「五枚ですか。あなた方が二枚にあとの三枚はどなたですか。」と紺三郎が云いました。
「兄さんたちだ。」と四郎が答えますと、
「兄さんたちは十一歳以下ですか。」と紺三郎が又尋ねました。
「いや
すると紺三郎は
「それでは残念ですが兄さんたちはお断わりです。あなた方だけいらっしゃい。特別席をとって置きますから、面白いんですよ。幻燈は第一が『お酒をのむべからず。』これはあなたの村の
二人は
「凍 み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のまんじゅうはポッポッポ。
酔ってひょろひょろ太右衛門が、
去年、三十八、たべた。
凍み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のおそばはホッホッホ。
酔ってひょろひょろ清作が、
去年十三ばいたべた。」
四郎もかん子もすっかり野原のまんじゅうはポッポッポ。
酔ってひょろひょろ太右衛門が、
去年、三十八、たべた。
凍み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のおそばはホッホッホ。
酔ってひょろひょろ清作が、
去年十三ばいたべた。」
キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。キック、キック、キック、キック、トントントン。
四郎が歌いました。
「狐こんこん狐の子、去年狐のこん兵衛が、ひだりの足をわなに入れ、こんこんばたばたこんこんこん。」
かん子が歌いました。
「狐こんこん狐の子、去年狐のこん助が、焼いた魚を取ろとしておしりに火がつききゃんきゃんきゃん。」
キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。キック、キック、キック、キックトントントン。
そして三人は踊りながらだんだん林の中にはいって行きました。赤い
すると子狐紺三郎が云いました。
「
四郎とかん子とは手を叩いてよろこびました。そこで三人は一緒に叫びました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ、
すると向うで、
「北風ぴいぴい風三郎、西風どうどう又三郎」と細いいい声がしました。
狐の子の紺三郎がいかにもばかにしたように、口を
「あれは鹿の子です。あいつは臆病ですからとてもこっちへ来そうにありません。けれどもう
そこで三人は又叫びました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ、しかの子ぁ
すると今度はずうっと遠くで風の音か笛の声か、又は鹿の子の歌かこんなように聞えました。
「北風ぴいぴい、かんこかんこ
西風どうどう、どっこどっこ。」
「雪が
そこで四郎とかん子とは
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」と歌いながら銀の雪を渡っておうちへ帰りました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
青白い大きな十五夜のお月様がしずかに
雪はチカチカ青く光り、そして今日も
四郎は狐の紺三郎との
「今夜狐の幻燈会なんだね。行こうか。」
するとかん子は、
「行きましょう。行きましょう。狐こんこん狐の子、こんこん狐の紺三郎。」とはねあがって高く
すると二番目の兄さんの二郎が
「お前たちは狐のとこへ遊びに行くのかい。
四郎は困ってしまって
「
二郎が云いました。
「どれ、ちょっとお見せ、ははあ、学校生徒の父兄にあらずして十二歳以上の
四郎とかん子はそこで小さな
兄弟の一郎二郎三郎は戸口に
「行っておいで。大人の狐にあったら急いで目をつぶるんだよ。そら僕ら
お月様は空に高く登り森は青白いけむりに包まれています。二人はもうその森の入口に来ました。
すると胸にどんぐりのきしょうをつけた白い小さな狐の子が立って居て云いました。
「今晩は。お早うございます。入場券はお持ちですか。」
「持っています。」二人はそれを出しました。
「さあ、どうぞあちらへ。」狐の子が
林の中には月の光が青い棒を何本も
見るともう狐の学校生徒が
みんなの前の木の
不意にうしろで
「今晩は、よくおいででした。先日は失礼いたしました。」という声がしますので四郎とかん子とはびっくりして
紺三郎なんかまるで立派な
四郎は
「この間は失敬。それから今晩はありがとう。このお餅をみなさんであがって下さい。」
狐の学校生徒はみんなこっちを見ています。
紺三郎は胸を
「これはどうもおみやげを
紺三郎はお餅を持って向うへ行きました。
狐の学校生徒は声をそろえて叫びました。
「堅雪かんこ、
幕の横に、
「
その時ピーと
紺三郎がエヘンエヘンとせきばらいをしながら幕の横から出て来て
「今夜は美しい天気です。お月様はまるで
それから今夜は大切な二人のお客さまがありますからどなたも静かにしないといけません。決してそっちの方へ栗の皮を投げたりしてはなりません。開会の辞です。」
みんな悦んでパチパチ手を叩きました。そして四郎がかん子にそっと云いました。
「紺三郎さんはうまいんだね。」
笛がピーと鳴りました。
『お酒をのむべからず』大きな字が幕にうつりました。そしてそれが消えて写真がうつりました。一人のお酒に
みんなは足ぶみをして歌いました。
キックキックトントンキックキックトントン
凍み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のまんじゅうはぽっぽっぽ
酔ってひょろひょろ太右衛門 が
去年、三十八たべた。
キックキックキックキックトントントン
写真が消えました。四郎はそっとかん子に云いました。凍み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のまんじゅうはぽっぽっぽ
酔ってひょろひょろ
去年、三十八たべた。
キックキックキックキックトントントン
「あの歌は紺三郎さんのだよ。」
別に写真がうつりました。一人のお酒に酔った若い者がほおの木の葉でこしらえたお
みんなは
キックキックトントン、キックキック、トントン、
凍み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のおそばはぽっぽっぽ、
酔ってひょろひょろ清作が
去年十三ばい喰べた。
キック、キック、キック、キック、トン、トン、トン。
写真が消えて凍み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のおそばはぽっぽっぽ、
酔ってひょろひょろ清作が
去年十三ばい喰べた。
キック、キック、キック、キック、トン、トン、トン。
四郎はすっかり弱ってしまいました。なぜってたった今太右衛門と清作との悪いものを知らないで喰べたのを見ているのですから。
それに狐の学校生徒がみんなこっちを向いて「食うだろうか。ね。食うだろうか。」なんてひそひそ話し合っているのです。かん子ははずかしくてお皿を手に持ったまままっ赤になってしまいました。すると四郎が決心して云いました。
「ね、喰べよう。お喰べよ。
キックキックトントン、キックキックトントン。
「ひるはカンカン日のひかり
よるはツンツン月あかり、
たとえからだを、さかれても
狐の生徒はうそ云うな。」
キック、キックトントン、キックキックトントン。
「ひるはカンカン日のひかり
よるはツンツン月あかり
たとえこごえて倒 れても
狐の生徒はぬすまない。」
キックキックトントン、キックキックトントン。
「ひるはカンカン日のひかり
よるはツンツン月あかり
たとえからだがちぎれても
狐の生徒はそねまない。」
キックキックトントン、キックキックトントン。
四郎もかん子もあんまり「ひるはカンカン日のひかり
よるはツンツン月あかり、
たとえからだを、さかれても
狐の生徒はうそ云うな。」
キック、キックトントン、キックキックトントン。
「ひるはカンカン日のひかり
よるはツンツン月あかり
たとえこごえて
狐の生徒はぬすまない。」
キックキックトントン、キックキックトントン。
「ひるはカンカン日のひかり
よるはツンツン月あかり
たとえからだがちぎれても
狐の生徒はそねまない。」
キックキックトントン、キックキックトントン。
笛がピーとなりました。
『わなを軽べつすべからず』と大きな字がうつりそれが消えて絵がうつりました。狐のこん
「狐こんこん狐の子、去年狐のこん兵衛が
左の足をわなに入れ、こんこんばたばた
左の足をわなに入れ、こんこんばたばた
こんこんこん。」
とみんなが歌いました。四郎がそっとかん子に云いました。
「僕の作った歌だねい。」
絵が消えて『火を軽べつすべからず』という字があらわれました。それも消えて絵がうつりました。狐のこん助が焼いたお魚を取ろうとしてしっぽに火がついた所です。
狐の生徒がみな叫びました。
「狐こんこん狐の子。去年狐のこん助が
焼いた魚を取ろとしておしりに火がつき
焼いた魚を取ろとしておしりに火がつき
きゃんきゃんきゃん。」
笛がピーと鳴り幕は明るくなって紺三郎が又出て来て云いました。「みなさん。今晩の幻燈はこれでおしまいです。今夜みなさんは深く心に
狐の生徒はみんな感動して両手をあげたりワーッと立ちあがりました。そしてキラキラ涙をこぼしたのです。
紺三郎が二人の前に来て、丁寧におじぎをして云いました。
「それでは。さようなら。今夜のご恩は決して忘れません。」
二人もおじぎをしてうちの方へ帰りました。狐の生徒たちが追いかけて来て二人のふところやかくしにどんぐりだの栗だの青びかりの石だのを入れて、
「そら、あげますよ。」「そら、取って下さい。」なんて云って風の様に
紺三郎は笑って見ていました。
二人は森を出て野原を行きました。
その青白い雪の野原のまん中で三人の黒い