述懐

種田山頭火




 ――私はその日その日の生活にも困っている。食うや食わずで昨日今日を送り迎えている。多分明日も――いや、死ぬるまではそうだろう。だが私は毎日毎夜句を作っている。飲み食いしないでも句を作ることは怠らない。いいかえると腹は空いていても句は出来るのである。水の流れるように句心は湧いて溢れるのだ。私にあっては生きるとは句作することである。句作即生活だ。
 私の念願は二つ。ただ二つある。ほんとうの自分の句を作りあげることがその一つ。そして他の一つはころり往生である。病んでも長く苦しまないで、あれこれと厄介をかけないで、めでたい死を遂げたいのである。――私は心臓麻痺か脳溢血で無造作に往生すると信じている。
 ――私はいつ死んでもよい。いつ死んでも悔いない心がまえを持ちつづけている。――残念なことにはそれに対する用意が整うていないけれど。――
 ――無能無才。小心にして放縦。怠慢にして正直。あらゆる矛盾を蔵している私は恥ずかしいけれど、こうなるより外なかったのであろう。
 意志の弱さ、貪の強さ――ああこれが私の致命傷だ!
(「広島逓友」昭和十三年八月)





底本:「山頭火随筆集」講談社文芸文庫、講談社
   2002(平成14)年7月10日第1刷発行
   2007(平成19)年2月5日第9刷発行
初出:「広島逓友」
   1938(昭和13)年8月
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年5月19日作成
青空文庫作成ファイル:
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