千住か熊谷かのことであるが、其処に
尼僧はそれを心配して、
「どうしたかと思って、心配してたのですよ」
「少し病気でしてね」
「もう好いのですか」
「ああ、もう癒りました」壮い男はその後で、「今日は一つお願いがあって来ましたよ」と云った。
「なんですか」
「
「貸してあげましょうが、それをどうするのです」
「少し入用です」
で、尼僧は奥から一枚の法衣を持って来て、壮い男の前に置いた。壮い男は嬉しそうにそれを持って帰って往った。
そして、暫くして、何かの用事で尼僧が寺の玄関へ往ってみると、壮い男に貸したはずの法衣が置いてあった。玄関口を出て往く時に、壮い男がたしかに持って出たことを知っている尼僧は、不審でたまらなかった。それでは持って帰っているうちに、もういらないようになったから、それで返しに来たものであろうかと思った。それにしても、何とか一言云うはずであるにと、物堅い壮い男の平生を知っている尼僧は、どうしても不審が晴れなかった。
其処へ壮い男の家から使いが来た。それは壮い男が長く病気をしていて、今日とうとう死亡したと云う知らせであった。尼僧ははじめてさきの壮い男は、壮い男が仮に姿をあらわしたものであると云うことを知った。
しかし、それにしても壮い男の幽魂が
「べつに心当りもないのですが、