予が本年発表せる創作に就いて

努力の不足を痛感す

牧野信一




 今年は、ほんの短いものまで数へて四篇位ひしか発表しなかつた。書いたのも略同様だつた。「気持」に囚はれて、ついそれをあくどくして了ふのがいけない。様々な意味で努力の足りなかつたことを痛感する。「妄想患者」といふのは今迄書いたものゝうちでも一番長いものだから、いつも繰り返す失敗を可成り注意したつもりだが感じた。だが割合に少なかつたとは思つてゐる。これに就いて見た批評は武林古賀武藤木内下村の諸氏だつたが、どれにも別段不快はなかつた。武藤君の言葉のうちに、主人公以外の人物が描けてゐないといふのがあつたが、それは斯する処があつてさうしたのだが、さう云はれるのも無理もなかつたと思ふ。決して不快も不満も感じたわけではなかつた。――とにかく自分は努力が足りなかつた。





底本:「牧野信一全集第一巻」筑摩書房
   2002(平成14)年8月20日初版第1刷
底本の親本:「新潮 第三十七巻第六号(十二月号)」新潮社
   1922(大正11)年12月1日
初出:「新潮 第三十七巻第六号(十二月号)」新潮社
   1922(大正11)年12月1日
※「予が本年発表せる創作に就いて」と題したアンケートへの、「努力の不足を痛感す」との回答です。
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2011年5月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード