著者小傳

直木三十五




           私の略歴

 本名――植村宗一
 年齡――三十五、卯の一白
 生地――大阪市南内安堂寺町
 父 ――惣八、八十一才
 母 ――靜、六十九才
 族籍――平民
 弟 ――清二、松山高等學校教授
 妻 ――須磨子、四十七才
 長男――昂生
 長女――木の實
 身長――五尺五寸六七分
 體重――十二貫百位

 筆名の由來――植村の植を二分して直木、この時、三十一才なりし故、直木三十一と稱す。この名にて書きたるもの、文壇時評一篇のみ。
 翌年、直木三十二。この時月評を二篇書く。
 震災にて、大阪へ戻り、プラトン社に入り「苦樂」の編輯に當る。三十三に成長して三誌に大衆物を書く。
 三十四を拔き、三十五と成り、故マキノ省三と共に、キネマ界に入り「聯合映畫藝術家協會」を組織し、澤田正二郎、市川猿之助等の映畫をとり、儲けたり、損をしたりし――後、月形龍之介と、マキノ智子との戀愛事件に關係し、マキノと、袂を分つ。
 キネマ界の愚劣さに愛想をつかし、上京して、文學專心となる。
 習癖――無帽、無マント、和服のみ。机によりては書けず、臥て書く習慣あり。夜半一二時頃より、朝八九時まで書き、讀み、午後二三時頃起床する日多し。
 速筆にて、一時間五枚乃至十枚を書き得。最速レコード、十六枚(踊子行状記の最終二十四は、この速度にて書く)
 酒は嗜まず。野菜物を好む。煙草は、マイミクスチユアか、スリーキヤツスルのマグナムに限る。但し、金がないとバツトにても結構。
 飛行機好きにて、旅客中、最多回數を搭乘し、レコード保持者たり。
 パノール號ロードスターを自家用自動車として所有す。中古千五百圓なりし品にて、菊池寛氏と共有の物なり。同氏と、文藝春秋社と、三者にて使用し、月經費を三分しつゝあり、圓タクよりあし。
 趣味――圍碁二段に二三目。將棋八段に二枚落。麻雀無段。カツフエ、待合、旅行、競馬嫌ひなもの無し。
 資産  自動車半臺分。刀劍少々。
直木三十五





底本:「直木三十五全集 第21巻」示人社
   1991(平成3)年7月6日発行
底本の親本:「直木三十五全集 第21巻」改造社
   1935(昭和10)年12月18日発行
初出:「現代大衆文學全集 續八卷」平凡社
   1931(昭和6)年3月発行
入力:門田裕志
校正:土屋隆
2004年12月4日作成
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