一
九月十四日の夜モスク


二
九月二十二日 土曜日
(一) ヴォルガ河からスターリングラードへ十九日に上陸、それからウクライナの野を横切って、こちらで有名な温泉のあるキスロボードスク、ピヤチゴルスクに一晩ずつ泊りました。コーカサスに近づいたこのあたりの景色は雄大です。山が多い。その山が幾重にもうちかさなった彼方に雪をいただいた嶺があって、ちょうど那須野ケ原から日光連山を眺める、あの眺望の数千倍大きく、強いものだといえましょう。だが温泉へは入らず。こっちの温泉はドイツのバーデン・バーデンや何かと同じで、冷鉱泉をのんだり、医者に皆導かれて浴するので箱根へ行ったように、つくなり一風呂浴びて、ユカタに着かえるような気分は見られません。こちらは非常にリンゴが多い。それから乾草がよい。乾草車を大きな角の牛が二頭でひく、馬は有名なコーカサス馬だから、ふつうの貸馬車が二頭立で山坂をのぼります。
今日は朝ピヤチゴルスクを出て、今はミネラーリヌイヴォドイというステーションのレストランでこのハガキを書いています。今夜はウラジカフカアズというコーカサス越えの手前の都会へゆきます。ウラジカフカアズから一日コーカサスの山越えをしてグルジアのチフリスという都会へ出ます。スターリンはここで生れました。この辺コーカサスを越えた南の地方の中心です。
〔一九二八年十月〕