国文学というものは、云わばこれから本当の生きた研究がされるのではないだろうか。旧来の国文学は専門家の間にどこまでも鑑賞、故実
関みさを氏の『清少納言とその文学』は、若い世代の古典への常識のための手びきという明瞭な立場をもって書かれていて、その目的のためには実に親切に整理されている本だと思う。この一冊の本を精読すれば、私たちは他の王朝文学の全般をよむ場合に先ず知っていなければならない当時の社会事情、衣食住、女性の生活、文学の系列をも学ぶことが出来る。清少納言の婦人及び芸術家としての生活に対して、著者は穏かな表現のうちに実感をこめて「私どもも人生の幾山河をこえ、清少納言がこの枕草子を書いた年齢よりずっと多くの年を重ね、理智や批判の眼も少しはあけられて来ました」とこの王朝女流作家の輝やかしい文学の中には女性としての世俗的な半面や弱気のあらわれていることをも認め、それをも含めて芸術の全面を暖く評価している。古典を理解するそのような著者の態度からも、与えられるところは少くあるまいと思う。
古典の活きた再評価のためにはこの本のほかに、今続刊されている『日本古典読本』(日本評論社・全十二巻)なども、今日における国文学の味いかた、理解しかたの点で或る生新な努力が試みられていると思う。