発刊の言葉

宮本百合子




 町の本屋の店さきを見ると、ハデな表紙の婦人雑誌が山ほどつまれています。どの一冊を手にとりあげてみても、まず美しく着飾った若い女の写真がのっているか、さもなくば、どうしたら美しく化粧できるかというようなことが書かれている。
 なるほどこの頃は、不景気につれて、こういうブルジョア婦人雑誌にでも、どうしたら貯金が出来るかとか、失業や減俸にあった家庭のやりくりのしかたとかいう記事がのります。
 しかし、わたし達すべて働く婦人は、世の中の不景気が深まるにつれ、一日一日と実に辛い暮しをするので、たとえば減俸についても、ただ、減俸された世帯をどうやりくるかという末のことだけでなく、何故減俸ということが起ったのかという根本のところまでを、どうかして知り度く思うのです。失業についてもそうです。
 どうしたらこの不安な失業ということはなくなるか。減俸にあわないですむ世の中になるのか。そういう事も知りたい。
 この頃の農村の生活のせつなさはお話のほかです。それについてもお互に話したいこと知りたいことは胸いっぱいです。
 ブルジョアの婦人雑誌は、われわれ働く婦人のそういう沢山の望みを決してシンからみたしてはくれません。わたし達は、ほんとに自分達の日常生活の友となり役に立つ知識と勇気と楽しみとを与えてくれる婦人雑誌が欲しいのです。
 それにはこれまで『婦人戦旗』というのがあったのです。『婦人戦旗』は日本で初めて生れた働く婦人の友となり教師となる雑誌でした。そして、これは戦旗社という出版社から出されていたものです。
 ところが残念なことにこの『婦人戦旗』は非常に出版を困難にされ、実になる婦人雑誌を求めている働く婦人みなさんの手にくまなく渡るというところまでは行きませんでした。
 今度まことに嬉しいことには日本プロレタリア文化連盟というのが結成されました。これは今日本にあるわれわれ勤労大衆のための文化団体十二がかたまって力を合わせますます活溌な活動をするところです。
 そこからいよいよこの『働く婦人』というわたしらの雑誌が出ます。これこそ、もっと広い、もっと楽しく充実したわれわれの婦人雑誌です。お互に真面目に働きながら多くの苦しみを背負わされている日本の働く婦人ならば、あらゆる職場で、家庭で親しくみんなが読み合う雑誌です。自分たちの力で、どうしたら今の世の中を住みよいところにして行くか。そのために確かり心に入れておかねばならない一切のことがわかり易く書かれてゆかなくてはならない雑誌なのです。
『婦人戦旗』の読者はもちろんのこと、『婦人公論』や『主婦之友』などの読者も、一人のこさずよむべき雑誌です。
 仲間同士で、みんな読むよう、すすめ合おう! そして、われわれの力で『働く婦人』を素晴らしいものに守りたてて行こうではありませんか!
 みなさん! ドシドシいろんな記事を書いてよこして下さい。どういうことをのせて欲しいか、遠慮しないで注文を出して下さい。
『働く婦人』はわたしらの雑誌です。
〔一九三二年一月〕





底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年7月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
   1952(昭和27)年8月発行
初出:「働く婦人」
   1932(昭和7)年1月創刊号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
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