編輯室より(一九一五年三月号)

伊藤野枝




□毎月校正を済ますとほつとしますけれども直ぐ後からいら/\して来ます。何故こう引きしまつたものが出来ないのだらうと情なくなつてしまひます。自分の無能が悲しくなります。でもかく出来るけよくしたいと努力はしてゐます。二ヶ月三ヶ月と進んでゆくにしたがつてだん/\苦しくなつて来ます。然し私は何時迄も/\その苦しみに堪へてゆかうと思ひます。
□前号この欄に私が生田花世さんが雑誌を出されるといふことに就いて一寸ちょっとしたムラ気からヒヤカシを書きましたら時事新報紙上でゼラシイからのけんかだと嘲笑されました。ウツカリ口のきけない世の中だとおもひました。
□今月はボンヤリしてゐたものですからすつかり何にも出来ないで日が経つて仕舞ひました。生田長江ちょうこう氏の「超人の哲学」、阿部次郎氏の「三太郎の日記」は来月号できつと紹介いたします。あしからず。
□障子社の展覧会が三日から七日迄向ふ五日間京橋区柳町東中通り(南伝馬町みなみでんまちょう下車)画博堂で開かれます。真田久吉氏、埴原桑喜代氏、清水太助氏、奥村博氏の画が出品されます。
白山はくさんの有朋堂で、模範原稿用紙を売り出しました。気のきいた中型の使ひいゝ原稿用紙です。
[『青鞜』第五巻第三号、一九一五年三月号]





底本:「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」學藝書林
   2000(平成12)年5月31日初版発行
底本の親本:「青鞜 第五巻第三号」
   1915(大正4)年3月号
初出:「青鞜 第五巻第三号」
   1915(大正4)年3月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
入力:酒井裕二
校正:雪森
2016年12月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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