編輯室より(一九一五年四月号)

伊藤野枝




□先月は随分つまらないものを出したので大分方々からおしかりを受けました。そのうめ合はせに今月は特別号にして少しよくしやうかと思ひましたけれど何しろちつとも準備が出来てゐませんから来月にしやうと思つてゐます。
□だん/\いゝ時候になつて来ました。しばらく一緒に集まる機会がなくて過ぎました。近いうちに静かな処で一度会を開きたいとおもつてゐますが集まつて頂けるでせうかお茶でも飲んでしんみりと皆でお話したいと思ひます。
□この頃は頼まれないからなどゝ原稿をお書き下さらない向きもあるさうですが、私は原稿と云ふものは人にたのまれたからといつて書けるものでもないし頼まれないからいゝものが書けないつてこともないものだと思つてゐますのでどなたにかぎらず自信のあるいゝものが頂けるのをだまつて待つてゐるのです。却つてお頼みして無理にいやなのをわざ/\お書き下さるのも御迷惑と思はれますし私の方でもお願ひして書いて頂くからにはどうしてもつい出さねばならぬと云ふやうにわるい情実をこしらへることになりますからほしくてたまらないのをだまつて下さるのを待つてゐるのです。ですから何卒そんな偏屈――でもないでせうが――な考へをおすてなすつてどん/\おかき下さることをお願ひいたしておきます。
□平塚さんは今長篇御執筆中です。いよ/\発表される日のはやく来るのを待ちます。
□かつちやんは寺島村のしらひげ様の横町にこんど越しましたと昨日通知が来ました。
□岩野清子氏はお家の皆様で修善寺しゅぜんじへ行つてゐられます。
□私はそろ/\補助団のパンフレツトに出す材料を見つけにかゝらうと思つてゐます。未だに何の形式にも表はれないことは団員諸氏に対して申わけのないことだと思つてゐます。
□新刊書の紹介を怠つていつもすまないことには思つてゐますがついいゝかげんにしたくないと思ふものですから時間が見出せないでそのまゝになつてしまひます。何卒あしからず思召し下さい。
□交換広告をお断はりすることはこの間も申ましたがもう一度こゝに念のため断はつておきます。
□来月は前にも申ましたとほりに特別号を出したいと思つてゐますからこの十五日迄に原稿を沢山集めたいと思つてゐます。何卒よろしくおねがひいたします。
□それからパンフレツトのもずん/\続けてはするつもりですが何分可なり時間がないのに貧弱な私の力で翻訳でもしやうといふのですからどうぞ少し位ひまの入ることはおゆるし下さい。そのかはり出来るけいゝものをさがすつもりで居ります。それに補助団のその出版費となるべき皆様から出して頂いた金もずつと前々から雑誌の維持の方にうめあはせにまはされて殆んど出版の出来る程残つてはゐませんのでその方からして何とかしなければならぬ有様です。しかしそんなことはあくまで責任をもつていたすつもりですから何卒御安心下さい。
□大分手伝ひをしてやらうと親切に仰云おっしゃつて下さる方もありますが今の処しばらくは面倒なことばかりですから私一人でやらうと思ひます。もう少しどうにか形がついて混雑したりしないやうになればそうしてもつと忙しくなればお手伝ひを願ふかもしれませんがそれ迄はづお断はりいたし度いのです、何卒あしからず思召し下さい。
□雑誌が続かないのぢやないかなど御心配の方もあるやうですがこればかりはどんなことがあつても続けます。何卒私を信用なすつて下さい。先月あんなつまらないものを出したからなをあやぶまれたのかもしれませんが併し私は決してさうつまらなくはないと思ひます。かなりいゝものがあの中にあつたことを信じます。たゞ私がなまけた事だけはどうも申訳けのないことに思ひます。これからは決してあんなことのないやうにします。
[『青鞜』第五巻第四号、一九一五年四月号]





底本:「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」學藝書林
   2000(平成12)年5月31日初版発行
底本の親本:「青鞜 第五巻第四号」
   1915(大正4)年4月号
初出:「青鞜 第五巻第四号」
   1915(大正4)年4月号
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
入力:酒井裕二
校正:雪森
2016年12月9日作成
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