編輯室より(一九一五年二月号)

伊藤野枝




□此度こそは少しどうにかと思ひ/\次号へ次号へとはれて一向思つた半分も出来ません。出来もしないことを発表したつて馬鹿気てゐますから黙つてゐます。しかしそのうちにもつとしつかりしたものを書きたいと思つてゐます。
□今月号に私はゾラの『生の悦び』を読んだその感想をかなり長く書く気でゐましたけれど急にまとまりませんのであんなもので間に合はせました。此度は――三月号には発表しやうと思つてゐます。
□私が巻頭の感想を書きましたときにはまだ安田さんの原稿を見ないときでした。そして私は安田さんから、また郁ちやんからいろ/\な話を伺ひ、そしてまたあの安田さんの原稿をよんで私はつまらないことを書いたと思ひました。私は生田さんがお気の毒でたまらなくなりました。けれどもその為めにあの原稿を引つ込めると云ふこともあんまり生田さんを馬鹿にするやうで悪いからそれは止めましたけれども私は生田さんがどうぞあの感想を平静な心でおよみ下さることを望みます。
□生田さんは青鞜に対抗するやうな雑誌を近いうちにお初めになるさうです。もつと青鞜よりも実際的なそして青鞜のやうに高慢でなく売れないのでないずつといゝ雑誌をお出しになるさうです。実世間により多く触れて多大の経験をお持ちになつた氏の立派な技倆をはやく見たいものだと思ひます。はやく実現されんことをねがつてゐます。
□生田さんはあの問題をもつて大分方々を歩いてゐらつしやるやうですがどう云ふつもりなのかしらと首をかたむけてゐる人があります。誰も皆生田さんに同情することは事実ですがその為めに生田さんのあの論文が価値づけられると云ふことはなささうです。私はさう云ふ生田さんの惑乱した姿をまともにはとても見てゐられないやうな気がします。悶へ悶へてだん/\自分を窮地に引ずり込んで行くと云ふ悲しい事実が生田さんにはおわかりにならないのかと悲しくなります。
□らいてう氏は六月に小石川区西原町にしはらまち一ノ四に転居なされました。
□安田皐月氏は原田じゅん氏と結婚なさいました。
□今月は六号の感想を長く書く気でしたが二三日来ひどく頭が混乱してゐて何にも書けません。来月こそはきつと沢山かきます。此度はこれで失礼します。何だか一向気のりがしない編輯ぶりをお許し下さい。
[『青鞜』第五巻第二号、一九一五年二月号]





底本:「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」學藝書林
   2000(平成12)年5月31日初版発行
底本の親本:「青鞜 第五巻第二号」
   1915(大正4)年2月号
初出:「青鞜 第五巻第二号」
   1915(大正4)年2月号
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
入力:酒井裕二
校正:雪森
2016年12月9日作成
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