編輯室より(一九一六年二月号)

伊藤野枝




□今月は校正の出方が大変に後れました為めにおそくなりました。先月号は二ヶ月ばかり逓信局の納本がしてありませんでした為に郵便局に三四日留め置かれましたので地方へは大変に後れましたでせうと思ひます。何卒あしからず。
□欧洲戦争の為めに洋紙の価が非常に高くなりまして此の頃では以前の倍高くなりましたので情ない私の経済状態では思ふやうな紙も使ひきれなくなりましたので今月からはずつと質をおとしましたけれども、それでも価の点では以上のいゝ紙よりまだ高い位です。だんだんにまだ高くなりさうですがそれではとてもやりきれませんので今月から少し頁数を減じました。しかし出来るけの頁数はとりたいとおもひます。
□雑誌をもつと小さくしろと云ふ忠告を度々受けますけれど私としては成べく現在のまゝに続けてゆきたいと思ひますので出来る丈け働いて、もう少し経済状態をよくしたいと思ひますが私自身がその日の生活にはれてゐる位で御座いますので、思ふばかりで手が届きませんのです。せめて少しづゝでも稿料をお払ひする位には売りたいのが私の望みなのですが、売ることゝ本当にいゝ雑誌をこしらへることゝは両立しませんので――もつとも今の処ではよくて売れないのではありませんが――まあ現在のまゝでとにかく毎月発行を続けて行く事が出来さへすればよいと思ひます。そんな状態ですから何卒直接購読者の方で前金切れの方はお払い込み下さいますやうにお願ひいたします。
□大阪毎日新聞へ「雑音」として今書いてゐますのは私としては非常に自分でもいやでたまらないものです。もつともつと書けるつもりで居りましたのですが十分の一もかけません。何れまとめて出します節にはもう少し自分で満足の出来るやうに書きたいと思ひます。今読んで頂いてゐる方にはどうか今書いてゐる方は黙つてゐて頂きたいのです。本当におはづかしいものですから。
□野上さんがこれから本号にお出し下すつた題で続けていろ/\なものを書いて下さるさうで御座います。来月号は哥津ちゃんも久しぶりで書いて下さることになつてゐます。
□二月中旬頃か三月にはいつてからか、皆様の御都合のよさうな時に在京の方々と一度集まつて見たいと思つてゐます。
□「清子」と仰云おっしゃる方に申ます。何時ぞや下さいましたお手紙では、私にはまだはつきりとあなたの理解が出来ないと仰云つてお出になる点が分りません、お別れになつたのは御尤ごもっともな事に思へます。あなたとしてはそれより他に道は御座いませんでしたらうと思ひますがその後に何が残つてゐるのでせう、何卒もう少しくわしくあなたの、お心持なり、其処までになつた経過を具体的にお知らせ下さいませんか。
□来月号からは、今月内には皆様のお手許に届く位に早く編輯いたしますつもりです。何卒、今月号の後れましたことをお許し下さいまし。
[『青鞜』第六巻第二号、一九一六年二月号]





底本:「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」學藝書林
   2000(平成12)年5月31日初版発行
底本の親本:「青鞜 第六巻第二号」
   1916(大正5)年2月号
初出:「青鞜 第六巻第二号」
   1916(大正5)年2月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
入力:酒井裕二
校正:雪森
2017年3月11日作成
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