画家の午後

富永太郎




雪解けの午後は淋し
砂利を噛む荷車の
轍の遠くきこえ
疲れ心地にふくみたる
パイプの煙をのゝく
室ぬちは冬の日うすれ
描きさしのセント・セバスチアンは
低くためいきす。
電燈のとぼるを待ちつ
われは今 わが心のうつろを眺む。





底本:「富永太郎詩集」現代詩文庫、思潮社
   1975(昭和50)年7月10日初版第1刷
   1984(昭和59)年10月1日第6刷
底本の親本:「定本富永太郎詩集」中央公論社
   1971(昭和46)年1月
入力:村松洋一
校正:川山隆
2014年3月7日作成
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