煙草の歌

富永太郎




阪を上りつめてみたら、
盆のやうな月と並んで、
黒い松の木の影一本……
私は、子供らが手をつないで歌ふ
「籠の鳥」の歌を歌はうと思つた。
が、忘れてゐたので、
煙草の煙を月のおもてに吐きかけた。
煙草は
私の
歌だ。





底本:「富永太郎詩集」現代詩文庫、思潮社
   1975(昭和50)年7月10日初版第1刷
   1984(昭和59)年10月1日第6刷
底本の親本:「定本富永太郎詩集」中央公論社
   1971(昭和46)年1月
入力:村松洋一
校正:川山隆
2014年3月7日作成
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