無題

富永太郎




たゞひとり黎明の森を行く。
風は心虚しく幹のあはひを翔り、
木々はみなその白き葉裏をかへす。

樹の間がくれに、足速あしばや
白き馬を牽きゆくは誰ぞ。

道のの 歯朶の群をのゝけり。
かゝるとき、湿りたる岩根を踏めば
あゝ、わが出しやうの記憶甦へる。





底本:「富永太郎詩集」現代詩文庫、思潮社
   1975(昭和50)年7月10日初版第1刷
   1984(昭和59)年10月1日第6刷
底本の親本:「定本富永太郎詩集」中央公論社
   1971(昭和46)年1月
入力:村松洋一
校正:川山隆
2014年3月7日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード