手紙

慶応三年九月二十日 木戸孝允あて

坂本龍馬




一筆啓上仕候。
然ニ先日の御書中大芝居の一件、兼而(かねて)存居候所とや、実におもしろく(よく)相わかり申候間、(いよいよ)憤発可仕奉存候。
其後於長崎も、上国の事種々心にかゝり候内、少※(二の字点、1-2-22)存付候旨も在之候より、私し一身の存付ニ而手銃一千(ママ)買求、芸州蒸気船をかり入、本国(土佐)ニつみ廻さんと今日下の関まで参候所、不計も伊藤兄上(俊輔、後の博文)国より御かへり被成、御目かゝり候て、薩土及云云、且大久保が使者ニ来りし事迄承り申候より、急々本国をすくわん事を欲し、此所ニ止り拝顔を希ふにひまなく、残念出帆仕候小弟思ふに是よりかへり乾退助ニ引合置キ、夫より上国に出候て、後藤庄次郎を(土佐)にかへすか、又は長崎へ出すかに可仕と存申候」先生の方ニハ御やくし申上候時勢云云の(したため)もの御出来に相成居申候ハんと奉存候。其上此頃の上国の論は先生に御(じき)ニうかゞい候得バ、はたして小弟の愚論と同一かとも奉存候得ども、何共(なんとも)筆には尽かね申候。彼是の所を以、心中御察可遣候。猶後日の時を期し候。誠恐謹言。
九月廿日
龍馬
木圭先生
左右





底本:「龍馬の手紙」宮地佐一郎、講談社学術文庫、講談社
   2003(平成15)年12月10日第1刷発行
   2008(平成20)年9月19日第7刷発行
※底本手紙写真のキャプションに、(宮内庁 木戸家文書)とあります。
※丸括弧付きの語句は、底本編集時に付け加えられたものです。
※直筆の手紙の折り返しに合わせた改行は、省いて入力しました。
入力:Yanajin33
校正:Hanren
2010年10月9日作成
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