よそ人のあざむが如く
ダンテ・アリギエリ Dante Alighieri
上田敏訳
よそ人のあざむが如く、君も亦あざみ給ふか
我君よ、君はた知らじ、覺りえじ、世に不思議にも
俤のかくは移ろひ、變りたる深きいはれを、
そは君がたへなる色を仰ぎ見し惑ひ心地ぞ。
我心、君もし知らば、『憐愍』のいかで堪ふべき
かうやうのつらき恥目に我心惱ましむるぞ。
見よ、「愛」は君います邊、のびらかに心のどけく、
廣大の無邊力をぞ安んじて振ひ行ふ。
それ茲に怯え戰くわが生氣、逐ひやらはれて
家も無く、あるは苦み、あるは失せ、今たゞ「愛」は
殘りゐてふみ止まれる獨住、心地もよきか、
思ふまゝ君を仰ぐも羨まし、これわが顏の
さま變る故と知らずや。默しつゝ唯茫然と
われこゝに佇みきけば、官能の逃げ惑ふ聲。
●表記について
- このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。