棄権

――芥川賞(第二十三回)選後評――

岸田國士




 今度の芥川賞の銓衡には、私は選者としての任務を果すことができなかつた。
 私が東京に在住してゐないため、事務的な連絡が思ふやうにとれなかつたからでもあるが、候補作品を受けとつてから委員会が開かれるまでの短時日に、折あしく健康を害しどうしてもその作品の全部に眼をとほす暇がなかつたため、私は、自分の意見を述べることを差控へざるを得なかつたのである。
 しかし、どんな理由があつたにせよ、二回開かれた委員会のいづれにも出席できなかつたのは、私のやゝ勝手な都合であつて、これは委員の一人として怠慢のそしりをまぬかれない。
 さういふわけで、今度だけは、責任をもつて選評を書く資格が私にはないのである。





底本:「岸田國士全集28」岩波書店
   1992(平成4)年6月17日発行
底本の親本:「文芸春秋 第二十八巻第十三号」
   1950(昭和25)年10月1日発行
初出:「文芸春秋 第二十八巻第十三号」
   1950(昭和25)年10月1日発行
入力:門田裕志
校正:Juki
2010年8月17日作成
2011年5月31日修正
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