あひるさん と つるさん

村山籌子




 あひるさんは鳥は鳥でも羽が短いのでとぶことが出来ません。あひるさんの近所に、つるさんがゐました。二人はお友達でした。
 あひるさんは鶴さんの羽を見る度に一度貸してもらひたくて仕方がありません。でも、貸して下さいなどといふことは、あひるさんは恥しくて言へません。「鶴さん、君の羽は飛べるからいゝねえ。ぼく、君に、僕の持つてゐる万年筆をあげようか」とあひるさんが言ひました。鶴さんは大喜びで、「うれしいなあ、ほんとにれるのかい。」と言ひました。「うん、今あげる。」と言つて、あひるさんは鶴さんに万年筆をあげてしまひました。そして鶴さんは毎日、それを胸にはさんでゐます。でも「ぢやあ、君に、僕の羽を貸してあげよう。」とは言ひません。
 あひるさんは、又ある日、鶴さんに、時計をあげました。それからくつ、それから、鉛筆、色紙、お菓子、本、おもちや、あひるさんは持つてゐるものをみんな鶴さんにあげました。
 鶴さんはおうちにそれを持つて帰つて、机の中にだれにも言はないでしまつてをきました。鶴さんはどういふわけで、こんなに色々なものをあひるさんがくれるのだか、分らなかつたので、心配だつたからです。でも子供でしたから、矢張やつぱりくれるものはもらはずには居られなかつたからです。
 すると鶴さんのお母さんが、その引出しを開けて、中にこんな物が一杯はいつてゐるので驚いて鶴さんに聞きました。鶴さんはほんとのことを話しました。鶴さんのお母さんは、早速あひるさんのお家へ行つて、あひるさんのお母さんに、そのことを話しました。
 あひるさんのお母さんは、あひるさんを呼んで、どうして、こんなに沢山鶴さんへお母さんにはだまつて、ものを上げたのかと聞きましたが、あひるさんは顔を真赤まつかにしてどうしても言ひません。おしまひに、たうたう小さな声で言ひました。「私は、鶴さんの長くて強い羽を貸してもらつて飛んで見たかつたからです。鶴さんに、好きなものをあげたら、鶴さんが、僕に、その羽を貸すだらうと思つたからです。」あひるさんのお母さんは鶴さんのお母さんに、そのことを申しました。
 鶴さんのお母さんはあひるさんが可哀相でなりませんでした。それで鶴さんのお父さんは航空飛行会社の社長さんですから、近いうちに、あひるさんをその飛行機にたゞでのせて、高い所を見せてあげようと思ひました。
 何故なぜといつて、どうしても、生へてゐる羽を借すなんてことは出来ないからです。あひるさんは子供ですから、そんなことが分らなかつたのです。





底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版
   1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「子供之友」婦人之友社
   1930(昭和5)年5月
初出:「子供之友」婦人之友社
   1930(昭和5)年5月
入力:菅野朋子
校正:noriko saito
2011年5月3日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード