にはとり は みんな しあわせ

村山籌子




 あるところに、にはとりのたまごが 八つありました。みなさん ごぞんじの やうに、そのなかには、ひよつこが はいつてゐます。
 ところが、そのなかの 一わの ひよつこが そとにでたくなつて、なかから、からを、コツツン、コツツン、コツツンと つついて、ちひさなあなを あけました。
 それから、そのあなに ちひさい くちばしを つつこんで、ガリ、ガリ、ガリ、ガリと ひつかきまわしましたので、からは メリ、メリ! と われて、ひよつこの きいろいあたまが みえました。メリ、メリ、メリ、メリ※(感嘆符二つ、1-8-75) からが、まんなかから 二つにわれて、ひよつこが とんででました。すると、むかふのはうで、
「コケツコツコ コケツコツコ コケツコツコ こつちへおいで、はやくおいで」とおかあさんの めんどりがいひました。ひよつこは とても うれしかつたので、
「ピーツク ピーツク ピー ピーツク ピーツク ピーツク ピー ピーツク はい、いますぐ、ピーツク ピー」とそばへ はしつてゆきました。
 メリ、メリ、もう一つのたまごが われさうになりました。なかでは ひよつこが 一しやうけんめいに、コツツン、コツツン、コツツン、つついてゐます。
 コツツン、メリメリ、コツツン メリ、コツツン、メリメリ、コツツン、メリ コツツン、メリメリ、コツツン、メリ、八つのたまごは つぎつぎに メリメリメリメリメリメリメリと われて、なかから、八つの かわいらしい ひよこがうまれました。
 ひよこたちは、みんな、ちひさなあしで ピヨン ピヨン、チヨコ、チヨコと はねたり かけたり、おほさわぎ。そして、ピーツク、ピーツク、ピーツクと おかあさんの めんどりのそばへ はしつてゆきました。
「コケツコツコ、こつちですよ、コケツコツコ、こつちですよ。」と おかあさんの めんどりは ひよつこを おいしいたべもののところへ つれてゆきました。
 そのうちに、八わの ひよつこたちは だんだんに おほきくなつて、きいろかつたはねは、いろんな きれいないろに かわり、あたまのうへに あかいとさかがはえて みんな 一にんまへの にはとりになりました。
 ところが、そのなかの たつた一わの にママとりの とさかだけは、ほかの にママとりたちの とさかよりも どん、どん、おほきくなつて ゆきました。
 あるあさ、そのにママとりが、おひさまの でてくる すがたを みると、しらないうちに、くちがおほきくあいて、こんなこえが、のどのおくから でてきました。
コケコツコー
コケコツコー
 そのにママとりは じぶんながら、そのこえが いさましかつたものですから、つづけざまに
コケコツコー コケコツコー
コケコツコー コケコツコー
と むねをはつて、こえをはりあげて なきました。
 そのこえを きいた あとの にママとりたちは びつくりしました。そして、じぶんたちも、あの いさましいこえをださうとして、おほきくくちを あけて、うんうん ちからを いれました。けれども、そのこえはいくらきばつても
コケツコツコ、コケコツコ
コケツコツコ、コケコツコ
としか でません。そして、どうしても、あありつぱにコーケコツコー と なくことが できませんでした。なぜだかわかりますか みなさん? あとの にママとりは みんな、めんどりだつたからです。
 めんどりたちは がつかりしてしまひました。でもけつして、がつかりしてしまふなんてことは ありません。めんどりたちは こやのなかへ はいつていつて それぞれ、きれいな おほきな たまごを うみました。そこでめんどりたちは、かういふ うたをうたひました。
「コケコケコツコ コケツコツコ
わたくしたちは うたへません
けれども、まいにち、一つづつ
きれいな たまごをうんでます。」
 するとすぐに、おんどりになつた一わが うたひました。
「コケコツコー コケコツコー
ほんとにさうです、さうですとも、
ほんとにさうです、さうです。」
 そして、このうたを まいにち うたひながら、みんな、みんな、なかよく、しあわせに くらしてゐます。





底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版
   1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「コドモノクニ」東京社
   1939(昭和14)年2月
初出:「コドモノクニ」東京社
   1939(昭和14)年2月
入力:菅野朋子
校正:noriko saito
2011年7月14日作成
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