まるで野中の鶏小舎を襲う野犬のように
奴等は一言も吠えず踏込んで来た
寝ていた兄はガバとはね起き
突嗟に雨戸を押倒して奴等を踏みつけた
けれど奴等は一人ではなかった
すぐ躍りかかる奴があった
兄は組み敷かれた
兄は引っ立てられた
奴等は遂に兄をかっぱらって行ってしまったのだ
それは今朝の五時頃だった
うす明りの今
藁屋根に下る牙のような氷柱は
しずかにとけて唇を指ではじくような
しめっぽいやわらかい音を立てている
踏みにじられた貧しい住居は
古蒲団に泥靴の痕を残し
兄の寝床は藻抜けのまま冷え冷えとさらされている
お
湯をかけても喉をこさない
しずかに天井を鼠が走り
茶碗の湯気が頬を撫でる
妾はくやしさで胸が一ぱいだ
何故「兄弟」に呼びかけることが悪いのか?
何故わたしたちが自分たちの党をつくり
党を守ることが悪いのか?
兄よ
さらわれて行った兄よ
あなたの後へはすぐ続く者がある筈だ
あなたをこぼれ種子に捨て置く筈がどうしてありましょう
どうかお心丈夫に
わたしたちも今にこのしかえしはして見せる
奴等を迎え討つ!
それはわたしたちの力の充実した時果たされるのです
わたしたちは党の力を充満させよう
そしてわたしたちは必ずあなたを取返す
今に、きっと今に!
(『戦旗』一九三〇年三月臨時増刊号に発表)