夢の国

片山廣子




雄心や花ふみにじりわか芽つみほゝゑむすべは知らずあらなむ

ふと行きてかへらぬ人よ掌をすべりて消えし玉ならなくに

身の秋にしのぶも悲し日陰草小さく咲きて散りし花はも

天つ世の魂の足音あおとのきこゆらしゆめの国ゆくあかつきの時

思ひなゝあらそひもなき後の世は唯いとまあり眠る人のみ

つばさ破れ落ちしはやぶさやけ砂にうなじやかせて遠き空見る

うつくしき青葉の岡の殿づくり饑ゑし百人もゝたりつちはこぶらし

花散りし胸の園生の垣ゆれて道行く人となりにける君

ますらをはつかれつゝみてよき妻のつかはれ人となりにけるはや

朝の風四里の麦生の波越えて多摩の川辺に人たづね行く





底本:「火柱 第一卷第五號」ほのほ會
   1908(明治41)年7月15日発行
初出:「火柱 第一卷第五號」ほのほ會
   1908(明治41)年7月15日発行
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入力:匿名
校正:館野浩美
2016年6月10日作成
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