てんぷらの茶漬け

北大路魯山人




 てんぷらの茶漬けは油っ濃いもので、油っ濃いものの好きな方に好かれるのは無論である。
 揚げたてのてんぷらを茶漬けにするのはもとより差支えないが、本来、てんぷらの茶漬けは古いてんぷらの利用にある。昨日の残りのてんぷらだとか、一旦、冷え切ったものを生かして食う食い方である。それにはまず火鉢に網を載せ、一旦、てんぷらを火にかける。いくぶん焦げができるくらいに火をあてる。それを熱い飯の上に載せ、塩を適宜にかけるのである。
 前にまぐろの茶漬けで話したように、濃い目の熱いお茶をかける。御飯の量は、みずからの腹具合に相談して、盛ったらよい。ただ、ここに注意すべきは、てんぷらの茶漬けは甘いものを嫌うが故に、てんぷらのつゆをかけてはならぬ。必ず生醤油か、塩をかけるべきである。
 大根おろしは新鮮なものほどよく、辛い大根があれば、なおさら具合がいい。要するに、てんぷらの茶漬けは、残ったてんぷらを生かして食べる方法である。焙るため油がこなれ、香ばしくて、意外に美味しいものである。材料になるてんぷらが、良質のものでなければ、美味しくならないことは言うまでもない。
(昭和九年)




底本:「魯山人味道」中公文庫、中央公論社
   1980(昭和55)年4月10日初版発行
   1995(平成7)年6月18日改版発行
   2008(平成20)年5月15日改版14刷発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2012年9月26日作成
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