屈辱

――市電の一労働者に代って――

今野大力




この一本のレール
この一本のリベット
この一本の枕木
この掘割、この盛り土
このコンクリート
その上を平穏に走って行く機関車
機関車は一つの鋲から
一つのネジ
一つの管から、一つの安全弁
その機関車に焚く一塊の石炭までも
何から何まで、ピンからキリまで
おお これが誰の仕事の成果であるか
すべてはタコだらけの手のひらでなで
俺たちの仲間の労働がつくった

機関車はレールを辷る
機関車は今運転されている
その機関車は軍用列車
軍用列車は、バクダンを積んでいる
銃や大砲やタンクや
それから秘密の兵器が
支那へ 支那へ
ソヴェートへ ソヴェートへ
戦争に 戦争に

機関車を運転するのはおれたちの同志
機関車を安全線へ導くのもおれたちの同志
機関車を平穏に走らせるのもおれたちの同志
たとえ戦時は幾層倍の過労の仕事をして
いくばくかの手当が与えられ
君や君の親兄弟が飯を食うとも
君たちは奴隷ではない
君たちはめくら馬ではない
ましておれたちの正面の敵
日本ブルジョア共の中国侵略戦争だ
屈辱!
たえがたきこの屈辱!
いのちをささげて
中国ソヴェートや
ソヴェートロシアの同志に
あの労働者の建設の意識に燃えた同志達に
恥なき干渉するために
武器を運ぶ屈辱!

君は機関士
君は転轍士
君は線路工夫
そしておれたちは交運労働者

全線!
おれたちは日本交通運輸の大動脈
きっとおれたちは起ち上る
おれたちの力の盛り上りは
日本プロレタリアートの力の盛り上り
おれたちは
おれたちのの指令を待つ!
決定的闘争の指令を待つ!
全線休止!
きっとおれたちは結束して起ち上る
そしてソヴェート干渉戦争のインボウ者の腕をへし折ろう
おれたちは交運労働者
新らしい日本のプロレタリア
(一九三二年四月日本プロレタリア作家同盟出版部刊『赤い銃火〔詩・パンフレット第一輯〕』に発表『今野大力・今村恒夫詩集』改訂版を底本)





底本:「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」新日本出版社
   1987(昭和62)年6月30日初版
底本の親本:「今野大力・今村恒夫詩集」新日本出版社
   1985(昭和60)年4月改訂版
初出:「赤い銃火」詩・パンフレット第一輯、日本プロレタリア作家同盟出版部
   1932(昭和7)年4月20日発行
入力:坂本真一
校正:雪森
2014年5月14日作成
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