貴族の表情をこさえるために
ハルピンの白系露人の女は
ジーッと物を見すえてうっかり動揺の見 にくさを見せまえ とし、古い宝石の腕輪や首かざりやピンに品物以上を物語らせようとし、
窮屈なほど口元をすぼめて上品さを見せんとしている。
いくら金髪で、純粋のロシア人であっても
このロシア人はちっとも値打のないロシア人
今の世界中でロシア人の値打は
社会主義サヴェート共和国を建設して
絶大な成功と自信とを握っているところにあるんだが
いまだに帝制の昔にかえる日を夢見ている
この女達の貴族的な行儀や作法や表情や
そんなことを何か得がたい値打のように
あこがれている、ブルジョア根性の奴等は
どこかにいないか
その写真の女は
ハルピンのカフェーに
うようよと、ねたましそうに憎らしそうに
母国のロシアを見返している値打のないその女達だ。