相当にぎやかな街の電柱の下のベンチに
素晴らしい将軍が休んでいる
私は写真を見てそう思った
が、この老将軍は
前歴が何だかわからない
ただぶくぶくした襟毛つきの厚っぽたい外套をきて
帽子はないが
ない方がずっと素晴しい頭髪やヒゲを効果的に見せるし
眉毛でも普通の人間とは凡そ縁遠い
だがこの老将軍は白系露
日本人には驚くだけである
同じベンチにも一人いる
大学教授が一寸腰かけているようである
ところがこの男はルンペン
新聞を読んでいるが、
まだ春先き早い頃であろうに
うすっぺらなレインコートをきて
足を重ね片手をまたぐらに挟んでいる
やはり白系露人の一人
ブルジョア精神を捨てられず
労働がきらいで
ソヴェートに帰らずに新聞売とルンペンになっている彼等
彼らは何を夢見つつ
日本人の次第に進出する
ハルピンの街頭に佇むことか、
五・二〇