人面凝視

今野大力




ふとして眺むれば
彼処かしこに笑めるは一人の不可解なる精霊の所有者である
われは今その面を見つつ想う

唇……
おおそは紅の渕に囲われし底知れぬ沼である
 鼻……
おおそはまろみあるエジプトのピラミットである
 眼……
おおそはうるおい耀く黒曜石の玉を秘めし二つの湖水である
 眉……
おおそは湖水をめぐりて小丘の上に繁れる林である
おおなめらかに広き無毛の原を過ぎ行けば
彼方は千古の密林である。





底本:「今野大力作品集」新日本出版社
   1995(平成7)年6月30日初版
初出:「旭川新聞」
   1926(大正15)年10月1日
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年2月17日作成
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