あなうさピーターのはなし

THE TALE OF PETER RABBIT

ベアトリクス・ポッター Beatrix Potter

おおくぼゆう やく




表紙絵

口絵1
口絵2

挿絵1
 むかしむかし あるところに 4ひきの こうさぎが おりました。 なまえは それぞれ
フロプシー、
モプシー、
カトンテル、
ピーターです。
 4ひきは おかあさんと いっしょに とってもおおきな モミのきの したにある あなのなかに すんでいました。

挿絵2
 あるひの あさ、 あなうさママが いいました。
「さあ おまえたち、 のはらのなかや こみちのさきで あそんでらっしゃい。 でも、 マグレガーおじさんの おにわには いっちゃダメよ。 むかし おとうさんが そこで ひょんなことから マグレガーおばさんに つかまって パイに されたんだから。」

挿絵3
「いってらっしゃい、 きを つけるのよ。 おかあさん、 るすに してるから。」

挿絵4
 それから あなうさママは かごと かさを てにもって、 もりの むこうの パンやさんへ むかいました。 かったのは 1きんの くろパンと ぶどうパンを 5つです。

挿絵5
 フロプシーと モプシーと カトンテルは とっても いいこでしたので、 こみちを くだって クロイチゴつみに でかけました。

挿絵6
 けれども ピーターは ひどく やんちゃでしたので、 そのまま マグレガーおじさんの おにわに いちもくさん、 いりぐちの さくの したを むりくり くぐりぬけたのです!

挿絵7
 すぐさま レタスと インゲンを かじって おまけに ハツカダイコンまで。

挿絵8
 すると どうも きぶんが わるくなったので おくすりの パセリを さがすことに しました。

挿絵9
 ところが キュウリの なえばこを まわったところで でくわしたのが、 なんと マグレガーおじさん!

挿絵10
 マグレガーおじさんは よつんばいで キャベツのなえを うえていたのですが、 とびあがって ピーターを おいかけます。 くわを ふりふり さけぶのです。 「まてえ、 ぬすっと!」

挿絵11
 ピーターは もう びっくりして ふるえあがって にわじゅうを かけまわりました。 それというのも いりぐちが どこにあったのか わからなくなったのです。
 しかも キャベツばたけで くつを かたっぽ、 ジャガイモばたけで もうかたっぽを なくしてしまいました。

挿絵12
 くつも ないので よつあしで はしると ぐんぐん はやくなって、 うまくいけば にげられたと おもうのですが、 うんわるく スグリの あみに つっこんでしまい、 うわぎの おおきな ボタンが ひっかかってしまったのです。 ちなみに あおの うわぎで しんちゅうの ボタンつき おろしたての ものでした。

挿絵13
 ぼくは もう しぬんだな、 ピーターは おおつぶの なみだを ながしました。 でも そのなきごえが たまたま やさしい すずめたちにも きこえて、 そして あわてて そばに とんできて あきらめないでと いうのです。

挿絵14
 マグレガーおじさんが やってきて もってきた ふるいを ピーターの うえから ぱっと かぶせようと しましたが、 ピーターは すんでのところで うわぎを ぬぎぬぎ あとに のこして にげだしました。

挿絵15
 そして ものおきごやに かけこんで じょうろのなかに とびこみました。 とってもいい かくればだと おもったのに みずが たくさん はいっているなんて。

挿絵16
 マグレガーおじさんには まるわかりでした。 ピーターは ぜったい ものおきごやの どこかに いる。 もしかすると うえきばちの なかかもしれない。 やがて そろりと もちあげて ひとつずつ なかを みるのです。
 まさに そのとき ピーターが くしゃみを ――「はっくしゅん!」 マグレガーおじさんが たちまち ちかづきます。

挿絵17
 あしで ふみつけられそうに なりましたが、 ピーターは まどの そとへと とびだして ついでに うえきを 3つ たおしました。 まどが ちいさすぎたので、 マグレガーおじさんも ピーターを おいかけるのを あきらめて のらしごとへ もどることに しました。

挿絵18
 ピーターは ほっとして こしを おちつけます。 いきも きれぎれ、 こころも ぶるぶる、 どっちへいったら いいのか ちっとも わかりません。 しかも じょうろのなかに いたので もう ずぶぬれです。
 しばらくして うろちょろ しはじめましたが、 とぼとぼ ―― とぼとぼ ―― ゆっくりと あるいて きょろきょろ。

挿絵19
 かべに ドアを みつけましたが、 かぎが しまっていて したを くぐりぬけようにも ぷっくりした こうさぎの とおる すきまは ありません。
 おかあさんねずみが いしの とぐちを はいったり でたりして きのなかで まっている かぞくに おまめを はこんでいます。 ピーターは そのねずみに いりぐちへの いきかたを ききましたが、 くちに おおきな おまめを くわえていましたので ねずみは なにも へんじが できません。 ただ くびを ふるだけなので、 ピーターは なみだが でてきました。

挿絵20
 それから おにわを つっきって かえりみちを さがそうと しましたが、 よけいに まよってしまいました。 やがて マグレガーおじさんが みずくみをする ためいけのところへ たどりつきます。 しろい ねこが きんぎょを じっと にらんでいて ぴくりとも うごきませんが ときたま しっぽの さきが いきものみたいに くねくねと していました。 ピーターは そっとしておくのが いちばんだと おもいました。 いとこの ばにばにベンジャミンくんから ねこのことは それなりに きいていたのです。

挿絵21
 ものおきごやに もどろうとすると いきなり すぐそばから くわの おとが きこえてきました。 さっくり、 さくさく、 さっくり。 ピーターは しげみのしたを あたふたと はしりまわります。 けれども なんということも ないので すぐに でていって ておしぐるまの うえへ のぼり ようすを うかがってみました。 まず みえたのが タマネギばたけを たがやす マグレガーおじさん、 ピーターには せなかを むけていて なんと そのむこうに いりぐちが あるのです!

挿絵22
 ピーターは おとも たてずに ておしぐるまを おりて ぜんそくりょくで はしりだしました。 クロスグリの しげみのうら まっすぐ みちを すすみます。 かどのところで マグレガーおじさんに みつかりましたが ピーターは かまいません。 いりぐちのしたに すべりこんで とうとう にわのそと、 もりに はいれば あんぜんです。

挿絵23
 マグレガーおじさんは ちいさな うわぎと くつを ぼうに ひっかけ からすよけの かかしに しました。 ピーターは そのままずっと はしりっぱなしで ふりかえることもなく おおきな モミのきの おうちまで かえりました。

挿絵24
 もう くたくたなので うさぎあなの ふかふかした やわらかい つちの じめんに ねっころがると まぶたが すぐに おちます。 おかあさんは おりょうりの さいちゅうで てが はなせませんでしたが、 みにつけていたものは どうしたのかしらと くびを かしげました。 つい このあいだも うわぎと くつを なくしたっていうのに。

挿絵25
 なんといったら いいのか、 ピーターは そのひの ばんは ずっと ぐあいが よくありませんでした。 おかあさんは ベッドに ねかしつけ カモミールの おちゃを つくってあげました。 ピーターへの おくすりと いうわけです!
「ねるまえに おおさじいっぱい のむこと。」

挿絵26
 かたや フロプシーと モプシーと カトンテルは ばんごはんに パンと ぎゅうにゅうと クロイチゴを たべました。

(おしまい)





翻訳の底本:Beatrix Potter (1902) "The Tale of Peter Rabbit"
   上記の翻訳底本は、著作権が失効しています。
   2009(平成21)年11月12日翻訳
   2010(平成22)年2月10日修正
   2011(平成23)年8月9日微修正
   2013(平成25)年9月1日修正
※この翻訳は「クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンス」(http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/)によって公開されています。
Creative Commons License
上記のライセンスに従って、訳者に断りなく自由に利用・複製・再配布することができます。
※翻訳についてのお問い合わせは、青空文庫ではなく、訳者本人(http://www.alz.jp/221b/)までお願いします。
翻訳者:大久保ゆう
2014年3月26日作成
青空文庫収録ファイル:
このファイルは、著作権者自らの意思により、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)に収録されています。




●表記について


●図書カード