昔、
私にはよく分からなかったが、何でも非常な食通で、料理の腕も一流だという
それで材料を買いに出たわけであるが、驚いたことには、この先生、道路の真ん中を悠然と歩きながら、「あの
それらを買って来て、いろいろな料理をしてくれたのであるが、そのうちの牛蒡の
食べてみると、
その時は、ひどく強情な男だと思ったが、考えてみると、そういう理窟も成り立つ。というわけは、この逆の場合を考えてみれば、すぐわかる。
料理のうちには、甘過ぎもしない、塩ッ辛くもない、酸っぱさも丁度いい、何一つ欠点はないが、唯美味くはない、という料理だってあり得る。そしてそういう料理が、一番始末に負えない代物である。「美味いが、唯少し塩ッ辛いだけだ」という方が、まだましである。
これは何も料理だけに限った話ではない。人間にも、学業は優秀、品行は方正、身体は強健、人附合いは満点、何一つ欠点のない男で、唯面白くはない、という人もある。欠点がないだけに、非難のしようもないので大いに困るが、どうもそういう人とは、本当の友人にはなれそうもない。
もっとも、これは主として日本で通用する話かもしれない。というわけは、日本では、勤勉とか、正直とか、孝行とかいうものは、美徳の中に数えられている。しかし「面白い」ということは、美徳の中にはいっていない。
しかし外国、とくに英国などでは、ユーモアというものは、美徳と考えられている。ユーモアは、
(昭和三十年八月十五日)