アメリカの新聞

中谷宇吉郎




 新聞の果している役割は、日本とアメリカとでは、大分ちがうようである。
 アメリカの新聞は、報道のほかに、娯楽面と広告とが非常に多い。とくに広告に多くの紙面を割いている。この広告に三種類あることは、日本と同様であって、化粧品なり、自動車なり、その商品を広く広告するのが、第一種である。つぎには、商店名の広告であって、百貨店なり、食糧品店グロッサリイなりの名前で、今日どういう安売があるかを広告する。これを第二種とする。第三種は、日本のいわゆる三行広告であって、求人、貸間、中古品の売買など、いわば個人性のある広告である。広告の量が非常に多いので、新聞は厖大なものになる。
 日曜日の新聞が、一番厚いので、今日のシカゴ・トリビューンなど、厚さ二寸近い一束が、一日分の新聞である。紙面の大きさは、日本の新聞と同じであって、それが何と総計百九十八ページあるのである。
 百九十八ページの新聞で、いろいろな記事がまじっていたら、見る方も困るし、第一編集ができないであろう。それで全体を七部に分けて編集してある。
第一部 本紙 四十ページ うち広告三十ページ。
第二部 スポーツ、経済 十二ページ うち広告五ページ。
第三部 地方欄 十六ページ うち広告十二ページ。
第四部 読書欄 タブロイド八ページ うち広告三ページ。
第五部 第三種広告 三十六ページ。
第六部 特殊広告 GMパワラマ 二十ページ。
第七部 娯楽面 十二ページ うち広告九ページ。
付録一 色刷 四十ページ うち広告二十五ページ。
付録二 色刷 漫画 十四ページ うち広告四ページ。
 以上総計百九十八ページであるが、一ページは普通の本の八ページ分の大きさであるから、本にしたら千四百ページの大著述になる。とにかく日曜版の一日の新聞として、千四百ページの本をつくるのだから、少し話が馬鹿げている。
 しかしそのうち広告が百四十四ページあって、全体の七割以上を占めている。その中でも第三種と称した、求人、土地家屋、貸間、中古品の売買などの広告は、非常に有効であって、就職にも、また中古自動車を買うにも、部屋を探すにも、たいていこの新聞広告で間に合うらしい。それでこの広告を目的に、新聞を買う人もかなりあるようである。そういう意味で、新聞はかなり日常生活と直結している。移転をする時など、よく家具類をほとんど売って、向うへ行ってからまた買う。荷造費が高いからである。そういう場合にもよく新聞広告が使われる。





底本:「中谷宇吉郎随筆選集第三巻」朝日新聞社
   1966(昭和41)年10月20日第1刷発行
   1966(昭和41)年10月30日第2刷発行
底本の親本:「百日物語」文藝春秋新社
   1956(昭和31)年5月20日発行
初出:「西日本新聞」
   1955(昭和30)年8月
入力:砂場清隆
校正:木下聡
2021年8月28日作成
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