大江満雄に

槇村浩




こゝに機械の哲学者がある―――
彼は思考し、血潮の中に機械のどよめきをでなく、血潮と共に脈動する機械のリズムを感ずる
彼ははつらつたる工場の諧調を背負うて、齟齬しながら鈍重に歩いて行く

こゝに機械の哲学者がある―――
彼は技師を宣言し、一切に正面照明を送る
照明はゆかいに大大阪を漫歩する
機械にまで虚偽を造る資本の虚偽と、百万の労働の精神とを透過し
浮揚する二重性をもって、飢えた子供の胃のレントゲン絵にまで照入する

こゝに機械の哲学者がある―――
たしかに彼は巧みな限りにおいて危う気なく進む
だがわたしらをして提議せしめよ―――
現実を後にでなく
前に置こう!
前方をして常にかちうべき真実の生産であらしめよ!





底本:「槇村浩詩集」平和資料館・草の家、飛鳥出版室
   2003(平成15)年3月15日
※()内の編者によるルビは省略しました。
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年3月8日作成
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