誤って健康を伝えられた同志たちに

槇村浩




健康(1)の一語をかる/″\しく口にするな!
健康(1)の錯誤は健康の犠牲よりいたましい
これほどわたしら共同の仕事の大きな邪魔者があろうか!

どちらがより多く仕事が出来るか?
獄内で坐っているわたしらにか、獄外で迫害に耐えているきみらにか?
わたしらはいつもきみらの過誤と素朴と情熱とを愛した
わたしらは出獄した時のきみらの仕事の成果をまじめに期待した
その後をわたしらが引きついでやりぬくために!

だが
仕事をせぬために過誤せぬもの、わづかの差異をたてに責任の摘発に自慰するもの、卑劣なあげあしとりを自己の合理化と宣伝とに利用するもの
革命の寄生虫―――ルンペン・プロレタリアートに呪あれ!

わたし、転向を知らぬ何千万の鋼鉄の裁判官の一人として
健康を伝えられた不幸な同志たちに代って宣告する
「汝等のうちに罪なきもの、先づ石を投げうて!」

(1)転向





底本:「槇村浩詩集」平和資料館・草の家、飛鳥出版室
   2003(平成15)年3月15日
※表題は底本では、「誤って健康(1)を伝えられた同志たちに」となっています。
※()内の編者によるルビは省略しました。
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年3月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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