冬の逗子

櫻間中庸




わびしさのつもれば獨り訪ね來て悲しき海の冬を聞くなり

水面擦り飛ぶおほ鳥の眞白なる翼に疲れ見えて哀しも

うら枯れし濱晝顏のながながと此處別莊の裏につゞけり

半島の岩に碎くる波見えて浪子不動に日は暮れなずむ

不動堂の折鶴の色あせゆきて冬に入るなりこゝ逗子の濱

手向けたる菊も懷かし不動堂やさしき主の住まひ給へば

折鶴の吊られたるまゝ色あせし不動の冬の夕べは哀し

マリやマリなれ知るやこの不動尊汝の瞳清らかなるよ

不如歸蘆花と刻みし石碑なほ倒れたるまゝ冬に入りたり

あまた窓皆カーテンを降したり海濱ホテルに人氣は見えず

濱の夕を馬走らする乙女あり赤き乘馬着のたのもしきかな

なぎさ打つ波のかけらのほの見えて葉山のはまに日は暮れるらし

馳けりゆく馬車馬の背にあかあかと落日にじめり葉山街道





底本:「日光浴室 櫻間中庸遺稿集」ボン書店
   1936(昭和11)年7月28日発行
入力:Y.S.
校正:富田倫生
2011年9月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード