夕暮の別荘地に歩み入る兵士達

百田宗治




喇叭らっぱの音、
疲弊した魂からしぼりだす最後の勇気のような
いま夕暮れの空に反響を呼んで
響きわたる喇叭!

おお汗みずくの兵士、
夏の夕暮の
湿やかな大気に充ちた郊外の別荘地にいま歩み入ってくる一隊、
重い背嚢、
きらめく銃剣――埃まみれの靴、
一日の演習に疲れて
へとへとになって帰ってくる是等の人々、
空腹――眩暈めまい
いま靴の音も不揃いに
ふりあげる喊声……

水撒かれた小径、
うちつづく生籬いけがき
ああその中を
彼等の一隊は過ぎてゆく、
いま遠くなる喇叭、
靴の音、
労苦と疲弊の一日の終り、
ああ落日の空の下の
一きわ高い彼等の歌!
(一九一八年十月大鐙閣刊『ぬかるみの街道』に発表 一九二〇年十月新潮社刊『百田宗治詩集』を底本)





底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社
   1987(昭和62)年5月25日初版
底本の親本:「百田宗治詩集」新潮社
   1920(大正9)年10月
初出:「ぬかるみの街道」大鐙閣
   1918(大正7)年10月
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年5月24日作成
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