おお露西亜よ
汝は飛ぶ、
汝は道をつくってゆく、
汝の動く時、
汝は自由だ、
あらゆる国土の上を、
あらゆる紛乱と殺戮の上を、
おおトロイカよ
汝は飛ぶ。
おおあらゆる一切のものを、
一切のヨーロッパを、
アジアを、アフリカを、
尨大な全アメリカを、
一切の政府とその国民を、
教会とトラストを、
あらゆる締結された自我的な国際条約を。
おお
汝の馭者はいま一人の百姓だ、
労働者だ、
汚れた服と汗みずくの
はだけた胸と、日に焼けた赭い皮膚の所有者だ、
鶴嘴を握り馴れたはばひろい掌に、
それはいま太い綱を支えている、
鞭を振り上げている、
横眼もふらず行方を見ている、
馬の
横腹には汗がにじみだしている、
しかし、殆んど「蹄を地に触れない位に」
疾走する、
飛んでゆく。――
(『ぬかるみの街道』に発表 『百田宗治詩集』を底本)