育て力づよく

田村乙彦




食えぬだんに学校学校言うて と母は子を叱る
小学校の四年の吉三は 学校へ行っては先生に うちへかえればみんなにどなりまくられる
「今日は学校休んでたきぎをとって来い 子供じゃ言うても飯を食うからにゃ」
ぼろぼろ涙を流しながら
えがま縄帯の腰につきさす吉三
子供までぼい使うてと親父は思うが
どうにもならない
明日はまた病気でもないのに勝手に学校を休んだと先生に叱られるだろう吉三よ
お前はそのほそい身体を何重も何重もしばられている
水平社のこどもとして
貧乏人のがきとして――
だが決して
やけになるな 悲しむな
立派に立派に育てよ 力づよく
早く大きくなれ 強くなれ
働くものがふみつけにされ差別される様な世の中と
戦う勇ましい大人になれ 早く
二月十八日
――この一篇を水平社の兄弟姉妹に捧げる――
(『田園の花』一九三二年四月刊第二号に発表 一九七九年二月槇村浩の会刊『土佐プロレタリア詩集』を底本)





底本:「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」新日本出版社
   1987(昭和62)年6月30日初版
底本の親本:「土佐プロレタリア詩集」槇村浩の会
   1979(昭和54)年2月
初出:「田園の花 第2号」
   1932(昭和7)年4月刊
※底本の編者による語注は省略しました。
入力:坂本真一
校正:フクポー
2017年11月24日作成
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