四月の夜

中野鈴子




油気を食べてはいけない
アルコールはなめてもいけない
つかれることはいけない

あんまり話もつづけられない
あんまり本もよみつづけられない

手紙を書くことは
返事を要求することになるので手紙も書けない
それで
郵便もこない

役場の税金
村の盛金
寄附の金らは
一反の田圃から五俵の純益あるものとして割り出されている

田圃一反から 米七俵実る
雇人の賃金一反につき 米二俵半
肥料代一反につき 米半俵
税金のたぐい一反につき 米三斗

そうして
いまは四月の夜
外は日が流れ
花が白く浮いている
遠くを走る旅行者の汽車の音が聞こえて来る

わたしは 寝返りを打って
自分の呼吸をたしかめる





底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版
   1980(昭和55)年4月30日初版発行
底本の親本:「中野鈴子全著作集 第一巻」ゆきのした文学会
   1964(昭和39)年7月10日発行
初出:「詩学 第十二巻第八号」
   1957(昭和32)年7月30日発行
入力:津村田悟
校正:かな とよみ
2024年3月12日作成
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