霙の中
森川義信
妹よ あの跫音は何であらう
喪はれた美しい日々の歌声ではない
今日も夕暮近い霙の中を通つてよ
怖ろしい鴉の黒い群であらうか
散薬の重いしめりに病み呆けた
わたしの胸にやつて来て
わたしの肋骨をこつこつとたたく
何であらう
妹よ お前さへ居ない此の部屋を
こつこつとたたくのは
いつたい何であらう
霙のやうに冷たい死の掌か――
霙のふる夕暮は
霙のふる夕暮に似て
さびしい私の若さ・いのちであるのだ
妹よ
底本:「増補 森川義信詩集」国文社
1991(平成3)年1月10日初版発行
入力:坂本真一
校正:フクポー
2019年1月29日作成
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