(上等兵安藤孝雄を憶ふ)

森川義信




友よ お前は二十歳
ひととき朔北の風よりも疾く
お前の額を貫ぬいて行つたものについては
もう考へまい
わたしは聞いた大きな秩序のなかに
ただ はげしい意欲を お前の軍靴の音を
わたしの力いつぱいの背のびではとどかない
流れよ幅広い苦悩のうねりよ

友よ二十歳の掌のなかで燃えたものよ





底本:「増補 森川義信詩集」国文社
   1991(平成3)年1月10日初版発行
※底本本文末尾に、「註 一九三七年冬北支にて戦死した上等兵安藤孝雄を憶ふ。」とあります。
入力:坂本真一
校正:フクポー
2017年6月25日作成
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