白い魔の手

長沢佑




七月――
焼けただれた太陽が地を射す
幽明の地をめざして
行進する華やかな一群
臨時列車は、
――海へ
――山へ
……………………
誰だッ?
汗をしむ奴等は?

土堤の上には
わんわんと燃えるかげろう、
じりじりと焼きつける田の底
頭上には、太陽が
ありったけの元気で踊ってる。
紺碧の空に浮ぶ一点の雲
みどりの田のをなでてゆく微風
すがすがしい夏の気分へ
おお、それさえも
一瞬の間
あとに残るは……
汗と疲労と空腹の俺達だ!

土堤の木影に眠る幼児
乳のみ児は、
炎天の直下に、
悲痛な喊声を張りあげ、乳首を求める。
権利の主張を……
その意気で!
よお、未来の闘士達よ
頑丈に育ってくれ!

白い幕の向うから、
チョビ髯の園長がほざいた。
――べての人間を愛しましょう
――汗を吝んでは成りません
「愛と汗」
――これが修養団の信条です、
それは、彼奴等、
汗を吝む奴等のマワシ者だったのだ!

組織へ!
闘争へ!
闘争を通じて拡大強化へ!
おれ達が、真実の叫びをあげて起ちあがってより、
彼奴等の魔の手は、
いくたび……
俺達の目をかすめようとしたことか
今また新なるインケンな敵の捕手とりて
「白色の倫理運動」
こいつ!
白い魔の手だ!

農村へ、農村へ
思想善導の重大な使命を帯び
全国の農村へ散った彼奴等の捕り手、
からくりの糸!
白いマの手の正体は?
汗のショーレイは、労働強化へ!
叩き込まんとする祖国愛の幻影は?
おお、そうだッ!
これこそ、
帝国主義戦争の危機をまえに、
俺達の陣営をカク乱せんとする
あいつ等の最後の手段だ※(感嘆符二つ、1-8-75)

七月――
捉らわれた同志はの中、
そとの兄弟は、
炎天下に、シャク熱の電波を浴びて
オレ達の大会準ビへ!
あぜみちを馳けまわる小さな闘士は、
大空にむかってオレタチの歌を唄う!
そうだ!
その意気で……
その力で……
あいつを!
あいつを!
白い魔の手を叩き潰して
兄弟よ※(感嘆符二つ、1-8-75)
俺達の陣を頑丈に固めろ!
――修養団西川支部発会の日に――
(『プロレタリア詩』一九三一年九月号に発表)





底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社
   1987(昭和62)年5月25日初版
初出:「プロレタリア詩」
   1931(昭和6)年9月号
※×印を付してある文字は、底本編集部による伏字の復元です。
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年12月12日作成
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