蕗のとうを摘む子供等

――東北の兄弟を救え――

長沢佑




三月の午後
雪解けの土堤っ原で
子供らが蕗のとうを摘んでいる
やせこけたくびすじ
血の気のない頬の色
ざるの中を覗き込んで
淋しそうに微笑んだ少女の横顔のいたいたしさ
おお、飢えと寒さの中に
今も凶作地の子供達は
熱心に蕗のとうを摘んでいる

子供等よ!
お前らの兄んちゃんは
何をして警官に縛られたのか
何の為に満洲へ送られて行ったのか
姉さん達はどうして都会まちから帰って来たのか
お前らは知ってるね
何十年の間、お前らの父ちゃんから税金を捲きあげていた地主
お前らの生活を保証してくれたか?
おまんまのかわりに
がい蕗のとうを喰うお前らの小さな胸にも
今は強い敵意が燃えている
天災だと云って

しらを切ったのはどいつだ!
「困るのは小作だけでない」
そう云った代議士(地主)の言葉にウソがなかったか
子供等よ! いつ地主の子供が
お前等と一緒に蕗のとうを摘みに行ったか
いつ、地主のお膳に
ぬか団子が転っていたか
修身講話が次から次へとウソになって現れて来たいま
おお お前らのあたまも「学校」から離れる

北風の吹く夕暮れ
母親は馬カゴのもち草を
河っぷちで洗ってる
子供らはざるを抱えて家路へ急ぐ
背中の児は空腹を訴えて泣き
背負った子供は寒さに震える
だが、見るがよい
水涕みずばなをたらした男の児等の面がまえを!
児を背負った少女の瞳を!
おお、凶作地の子供等よ!
その顔に現れた反抗と憎悪をもって
兄んちゃんのようなつい人間に成れ!
苦がい蕗のとうざるをほうり出して
父ちゃんから金を捲きあげた奴等に向って
あったかい米のご飯を要求するんだ!
(『プロレタリア文学』一九三二年二月号に発表)





底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社
   1987(昭和62)年5月25日初版
初出:「プロレタリア詩」
   1932(昭和7)年2月号
※×印を付してある文字は、底本編集部による伏字の復元です。
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年12月12日作成
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